2007-04-22

『俳句』2007年4月号を読む

『俳句』2007年4月号を読む


●大特集「20テーマで考える名句の必須条件」 p57-

雑誌は生き物だと言います。俳句を勉強するまじめな読者のための特集が、ドンとあるのが「俳句」の特徴ですが、長い生成と変化の時間を経てそういうものになっているのだから、それが、雑誌の生き物としての必然の形なのです。牛がああいう形でであるように、「俳句」誌は、こういう形。

さて、今月の特集から。

この句は〈色を見てゐる〉とあり、物よりもその色(物がその色であることの本質)を見ている構造になっている。つまり、〈色を〉の集中(縮こまる方向)が、〈寒さ〉の発見につながるのだ。(松浦敬親「寒さの名句の必須条件 重層共鳴構造」)

筆者は、寒さの特徴(本意?)を「縮こまること」ととらえ、〈くれなゐの色を見てゐる寒さかな 細見綾子〉〈しんしんと寒さがたのし歩みゆく 星野立子〉を、縮こまる方向の先に何を見出したか、という観点から読み解いています。

そこから先に展開される読み筋の当否には、留保をつけたい部分もありますが、この人は間違いなく「読み魔」ですね。

●俳人協会各賞決定 p151-

仁平勝「俳人協会評論賞 受賞の言葉」より
わたしの批評のテーマは、この言葉〔「なにもすべてが真実であると考えることはない。ただ、すべてが必然なのだと思えばよい」カフカ・引用者注〕に集約されています。俳句はこうあるべきだ、という類の評論をわたしは信用しません。そこに真実があったとしても、必然を無視した意志は持続しないからです。批評のゴールは、自身の通俗さを含めて、人の営みを全的に肯定することだと考えています。

これを、現状追認を宣言する、戦略的「おめでたさ」と、とるべきか。いや、むしろ、ここには、時間をかけて培った、デリケートな確信が語られているように思う。傾聴。


●「平井照敏との『旅』から」鈴木章和 p148-

東京駅で新幹線に乗ると、先生はおもむろに鞄から原稿用紙を取りだし、腕時計を見て「三十分ね」と合図をします。(略)二十五句。ぎりぎりねばって顔を上げると、先生は三十句を書き終えて遥か榛名山の方を眺めています。それから互いの作品を交換し、高崎に着くまで黙って選びあうのです。

筆者は、毎月一回、群馬県での先生の俳句講座に、同行していたそうです。助手というか、ひょっとすると鞄持ちというような立場だったかもしれません。そういうお弟子さんと、講座の往き帰りに俳句の作りっこをするなんて、平井照敏という人は、ずいぶん俳句が好きだったんだなあ、と、やや胸打たれる思い。

ある時の帰路、全く一句もできなくなってしまったことがありました。押しても引いてもひとことも出てきません。様子をみかねた先生はその時、こう言われました。「あぐむべからず、だよ。〈師、松島にて句なし。大切のことなり〉」

あぐむべからず云々は「三冊子」にある、芭蕉のエピソードだそうです。

●「江戸のエコロジスト一茶」マブソン青眼  p172-

生きとし生ける物をみな同じく敬愛するような世界観を、金子兜太氏は「一茶のアニミズム」と呼んでいます。同時に、二十一世紀のエコロジー精神を支えるべく、最も大切な価値観がこのような作品に提唱されているともいえるでしょう。つまり、すべての生命の存在価値を平等に認めることによって、人間が環境の生態のバランスを守り、おのずとそれが持続可能な発展に繋がってゆくという考え方です。

連載一回目。一茶の句に見られる「近世村人の生き方」「生き物感覚」「アニミズム」等に注目し、それは「地球環境の保護のための示唆」を与え「“文系的なエコロジー”精神」の拠り所になりうるものだという。

エコロジー関係の集会で講演すれば、大受けする内容なんだろうと思います。それはたしかに俳句の「有効利用」ではありましょうが、しかし、何か別のことの役に立つということが、俳句にとってなんなんだろう、何ほどのことなんだろう、と、これは素朴な疑問です。

●4月号の「好き句」

  草餅の指何本かねばりをる    加藤かな文
  言葉なき紋白蝶は喜びに     〃
  いくたびもまよひご呼ばれ春の街 高柳克弘
  義士祭の近しふはふはたまご焼  菊田一平
  如月ややがて落ちくる紙吹雪   津川絵理子

●4月号の「笑った」

筑紫 それと私が思ったのは、個人的なことですが、仁平勝が俳人協会に属していたというのでびっくりしました。 
(「合評座談会」 より、筑紫磐井発言)


●4月号の「びっくり」

仰向けに冬川流れ無一物   成田千空
仰むけに流れて秋の大河かな 平井照敏
仰向きに流れ行くなり春の川 鳴戸奈菜
(森田智子「川の名句の必須条件 ユニークな川の名句」 より)


(上田信治)

2 コメント:

匿名 さんのコメント...

はじめまして

「びっくり」の中の川の名句。ようするに仰向けは、川の季節を捉えた表現ではないと言うことですね。
なかなか愉快。

上田信治 さんのコメント...

自分は、川の「仰向き」って、思いついたら、気の利いた表現だと思ってしまうよなあ(類想感ないよなあ)と思って、びっくりしました。

これからも、よろしくどうぞ。