2011-10-30

2011落選展テキスト 田島風亜 七月は空 

七月は空  田島風亜

日の差して波あらはるる春の湖
鉢を置くごと幼子をぶらんこに
恋も夢もなき満開の躑躅なる
大いなる鳥に呑まるる朝寝かな
夏落葉カードゲームをするやうに
時計草楽しい時間だけ刻む
遅れました釣鐘草が鳴りまして
亀の子や掻きたる水に揺すられて
青嵐何かに怒りゐる迷子
鮎を焼く月若く火も若くして
枇杷の種箴言のごと残りけり
梅雨は壁もたれかかれば柔らかき
百日草百日先のことなんて
七月は空空は意志意志は花
ブロッコリー北海道より転がり来
地下鉄に窓あることを涼しとす
愛されてゐるさ空蝉そこかしこ
のど飴をもらふ撫子見てをれば
満月の画像飛び交ふ満月下
蚯蚓鳴く軍神てふ嫌な神
澄む水の中州の縁に触れゆけり
爽籟として飛び来しが餌欲しげ
言葉はも記号なりけり菊大輪
空に金星テーブルに栗光りをり
秋風の葉擦れの丘が町の芯
初鴨と公園で会ひお茶を飲む
木守柿明るき水の音のして
破芭蕉風を呼びゐる風の中
海を北に山を南に秋惜しむ
小春日や衣擦れの音するやうな
乗り合はす力士と七五三の子と
降る落葉発止と芝に立つもあり
冬耕の人より満ちてゆく景色
焦心に触れたる葱の甘さかな
猫化して家鴨となるや冬日向
霜晴の地より空より高笑ひ
悔恨や軽やかに浮く百合鴎
寒き夜の更くるや井桁組むごとく
師走から零れて父と鰻屋に
問ひゐるやはた告げゐるや福寿草
雪が来て雪雲が来てすべて雪
寒鯉と悲嘆と宇宙似てゐぬか
草萌えてむずむずむずと地底まで
春雪の冷え駅弁の白飯に
泣くにまだ早き河原や二月尽
ぴん札のごとき曇天鳥帰る
水温む飛び立つ鳥に搏たれつつ
パンジーの吹かれてやぶれかぶれなる
しほしほとビニール傘に春の雨
鳥の巣や去年の今頃は何を

1 comments:

minoru さんのコメント...

「冬耕の人より満ちてゆく景色」

ズームアウトという撮影法があるけれど、そのような
印象をもたらす一句のようです。遠くから冬耕の人を
クローズアップした状態で撮し、その後カメラをずっと
引いていく。冬耕の人が置かれた周辺の状況が次第に画面に
豊かに広がって行く中で、人物はその風景の中に収束していく
そんな情景を思い浮かべました。

「猫化して家鴨となるや冬日向」

「猫」と「家鴨」とくると、不謹慎にもある生命保険のCMなどを
思い浮かべてしまいました。それにしても、冬の柔らかい日差しの
中で、猫が家鴨に変わるとはどういうことなのだろうか、とちょっと
思いました。
しかし、雀が蛤に変わるのが俳句の世界ですから、それもありかな、
などとあっさりとその思いを引っ込めて、そんな不思議な世界に
遊ぼうか、などと思いました。