2012-04-15

林田紀音夫全句集拾読210 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
210



野口 裕



管弦のさざめき青い月夜経て

昭和五十五年、未発表句。最近、旧花曜の人と酒を酌み交わす機会があった。そのおりに、紀音夫が娘さんの影響で宝塚歌劇をよく観劇していたという話を耳にした。ベルばらのファンだったらしい。そんな話を聞くと、この句の下地もそんなところにあるのかなと想像してしまう。句末の「経て」は、「管弦のさざめき」後のことだろう。

 

雨傘の突とはびこるネオン咲き

昭和五十五年、未発表句。雨の繁華街。そんなに強い雨ではなさそうだ。この頃、日本経済は上昇中。作者の意には反しているだろうが、描写に徹した句にも景気の良さが下地として見えている。

 

春の声となり家の外過ぎて行く

昭和五十五年、未発表句。外界の向日的な声と、内界との対比。外界にいた作者の思わず出した陽気な声に自身が吃驚して、たまたまあった家の内界を想像して作句した、と見るべきだろうか。一方で、作中主体の立ち位置を、「家」の主と見ることも可能。句の読みの主眼を、「家」に置くか、「過ぎて行く」動作の主体に置くかで句のアングルが変わる。従来の紀音夫観からは、「家」を主眼とする方が自然だが、紀音夫を外界の陽気な声の持ち主とするのも洒落ている。

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