2012-04-15

【週俳3月の俳句を読む】 命の色 田中槐

【週俳3月の俳句を読む】
命の色

田中 槐


3月4日号の「クンツァイト丸ごと編集」は興味深かった。とにかく「クンツァイト」がなんなのかということさえ全く存じあげなかったので、依光陽子さんの文章の「クンツァイトというのはリシア輝石の一種で単斜輝石である」というのを読んだだけで、わりと石好きなわたしはわくわくしてしまうのだが、結成から二十年がたつというのに結社誌も発行せずWebサイトも持たず吟行句会だけの超スパルタ集団と知り、ふるふると身震いしつつも覗いてみたくなる。


春の海波を窪ますほどに鳥  依光正樹

夥しい数の海鳥たちが群れている。波の下に餌となる魚群でもいるのかもしれない。あまりに鳥がたくさんいるからその重さで波が窪んでしまう、と作者は見ている。鳥の浮力と重力は反対方向に働いているはずなのに、「波を窪ます」という表現に説得力がある。


春の猫身にある愁舐めつくし  下坂速穂

猫がていねいに毛づくろいをしている姿は、見ていて飽きない。作者はそれを「身にある愁舐めつくし」と見ている。「舐めつくし」がいい。愁をためる一方の人間にとっては、舐めつくせる猫がうらやましい。


春の雪生き物の毛の色を得て  中谷みのり

兎などは雪のなかでは毛を白くするらしいが、春の雪はその反対に「生き物の毛の色を得」るのだと、その反転のさせ方が面白かった。はだらに、土や草の色を見せている春の雪。溶けているのではなく、命の色を得ているのだと。


秋の夜の子の歯を磨く手が替はり  神山朝衣

歯磨きをしている子が、ブラシを持つ手を(たとえば右手から左手へ)替えた、ただそれだけのことだ。でも、その瞬間を捉えたからこそ、詩になった。秋の夜というのも、全体の雰囲気をうまく包み込んでいる。


早春の笹をさはさはさせたる手  導月亜希

笹の葉の乾いた感覚が「さはさは」というオノマトペによく似合う。しかも、笹の葉がさはさはと鳴った、ではなく、笹の葉を「さはさはさせた」「手」というものに着目しているのだ。この手は誰の手だろう。自分ではなく、恋人の手と読みたい。


草餅にならぬ蓬を束にして  岬 光世

蓬といえば草餅だが、作者は草餅をつくる気はないのだろう。ただ、なんとなくそこに蓬がはえていたから摘んでみた。ちょっとした束になるほど摘んでみた。草餅はつくらなくても、春をたのしむ心に満たされている。


早春や耳に手を当てをんなのこ  みわ・さかい

かわいい句だなあと思う。女の子はなぜ耳に手を当てているのだろう。まだ寒い春の風に冷えた耳をあたためるためか、あるいは誰かのことばをよく聞こうとしてか。いずれにせよ、ちょっとした仕草のかわいらしさを捉えている。


芋の芽や同級生の妻がゐて  岸由美子

「同級生の妻」にドキっとする。その同級生に特別な感情を抱いていなくても、なんだか不思議な気持ちになる。そういう、もやもやっとした気分を催させるような存在。それと「芋の芽」が見事に合っている。



第254号 2012年3月4日
クンツァイト丸ごとプロデュース号

依光正樹 独 行 10句 ≫読む
下坂速穂 樹 間 10句 ≫読む
クンツァイト新人6人集
中谷みのり 光彩 5句 ≫読む
神山朝衣 指の光 5句 ≫読む
岬光世 日月 5句 ≫読む
導月亜希 未然 5句 ≫読む
みわ・さかい エンゲージリング 5句 ≫読む
岸由美子 変身 5句 ≫読む

第255号 2012年3月11日
松井康子 春 よ 10句 ≫読む
横山尚弘 少年時代 10句 ≫読む

第256号 2012年3月18日
涼野海音 春キャベツ 10句 ≫読む



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