2012-05-27

〔超新撰21の一句〕小川軽舟の一句 野口 裕

〔超新撰21の一句〕
胃弱なんだろうな
小川軽舟の一句……野口 裕


(じつ)のあるカツサンドなり冬の雲  小川軽舟

けっこう食べ物の句が散見される。しかし美味そうというよりは、胃弱なんだろうな、詰め込まねばという義務感があるんだろうな、そんな同情を引き起こすような句が多い。

  鰻屋のふすまに凭れ年詰まる
  マヨネーズおろおろ出づる暑さかな
  蝸牛やごはん残さず人殺めず

などなど。そんな句群が影響するのか、明るく清潔なキッチン風景の

  俎に切るとんかつや春隣

さえ、家で喰うなら東海林さだおよろしく体裁かまわず丸のままにかぶりつけと、メタボの当方は叫びそうになる。もちろん、これは理不尽な言いがかりである。言いがかりではあるが、当方が感じるようなイライラは、すでに本人の自覚の中にあるように見受けられる。どこかすっきりと物事が割り切れない。問題など何もないはずなのに、おかしい。先が見えない。

  ソーダ水方程式を濡らしけり
  夢見ざる眠りまつくら神の旅
  はらわたの煮えくりかへる栄螺かな

やっかいなことに、イライラがつのれば脳は活性化される。体調さえ許せば、高揚感から生まれた張り詰めた神経が、すみずみまで行き届いた奇跡的な美の世界を現出させる。

  肘あげて能面つけぬ秋の風

この一瞬に胃弱は解消され、イライラは跡形もなく消え失せる。虚空に突き出た肘のみが浮かび上がる。肘は体躯の一部でありながら彼岸のモニュメントのようでもある。

とは言え、生活を召使いにまかせるわけにいかぬ今日、作者はカツサンドをもてあましながら詰め込むのである。食べ終わったならさあ仕事だと、自らに言い聞かす言葉は若干弱々しいか?しかし、言わぬよりは言った方がよいのである。


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