2012-06-03

林田紀音夫全句集拾読216 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
216



野口 裕



雪片の遠い空より身に消える

昭和五十六年、未発表句。前の句が、「雪片の身に残すもの何もなく」。雪片自身に焦点を合わせるところから、視点の移動を取り入れた。我が身体に触れて消えゆく雪を見ていると、雪の出自である遥か遠くの雪雲に思いを馳せる。空間の移動はいつしか時間の移動となり、追憶に移るだろう。

 

持ち重りして何や彼や木の芽雨

昭和五十六年、未発表句。ちょっとした感慨+季語、という典型的有季定型句。「なにやかや」ではなく、「なんやかや」と読みたいところ。諸事ごたごたとしているが、なんとかなるだろうという安心感も漂う。季語がそこにぴたりと寄り添う。

 
菜の花に夕映えの雲切り裂かれ

昭和五十六年、未発表句。赤く染まった雲を切断するように黄の菜の花が割り込む、というようなところだが少々大げさ。雲を切り裂くところに、何かを託そうとしたのだろうが、連想がうまく働くようでもない。明るい気分のわき起こる景に、無理矢理悲傷を盛り込もうとした紀音夫ならではの失敗作。

 
ひとりふたりと横切り雨後の土濡れる

昭和五十六年、未発表句。屋根の下の地面だろう。雨が降っているときは濡れていなかったのに、雨上がりに濡れた靴が通り過ぎ、次第に濡れてゆく。乾いた土と濡れた土のコントラストが見えてくる。

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