2012-07-08

【週俳6月の俳句を読む】風船のようなもの 久才透子

【週俳6月の俳句を読む】
風船のようなもの

久才透子


私の中には、思い出の詰まった風船のようなものがふわふわたくさん浮いている。
俳句の刺激で割れて、眺めたり、また浮かべたり。
俳句は、その十七音の世界から身動きがとれなくなることもあれば、
自分の思い出と重ね合わせることも出来る。二重三重においしく楽しい。
今回、記憶と結びついた句に、楽しい時間を貰った。


夏の火事ひときは人の匂ふかな  平山雄一

火事を見たことがある。季節は冬でテレビでは大河ドラマをやっていた。
すぐ近くなので駆けつけると、真っ白な雪の中に火があがっていて不謹慎だけどとても綺麗だった。見物人も何人かいたけれど、人の気配も声も匂いさえも周りの雪に吸収されてしまったようだった。パチパチ燃える音と水の音、消防士の飛び交う怒声……。なのに静謐であった。
夏の火事ならどうなのだろう。火事が見ている人の目や肌を照らし、温めていく。
燃えていくものたちと一緒に、いろいろなものが空気の中に溶けていきそうだ。
むせ返るような匂いを感じる一句だと思う。


Tシャツを脱ぎTシャツを着て眠る  佐川盟子

Tシャツで外出しなくなって久しい。悲しいことに年々Tシャツが似合わなくなっている。
着こなすには、ある程度の引き締まった身体や弾ける様な若さがないと厳しいように感じる。この女性がどんな年代なのかは知らないけれど、一日中ラフなスタイルで過ごしてしまった…という事なのだろうか。それとも、もう少しロマンティックな意味もあるのかもしれない。淡々とした行為を十七音で表していている。でもその裏にこの女性の一日のドラマがある。一瞬を切り取る俳句も良いけれど、一日の流れを感じられる俳句も良い。俳句を楽しいなと思うのは、こんな風に想像をかきたてられる句に出会う時だ。


ビニールの水も金魚もやわらかし  神野紗希

お祭りの金魚すくい。あっけなく紙の皿が破けた記憶。でもお皿が割れてホッとしたのを覚えている。すくい取れなくってホッとしたのは、子供心に持ち帰ったら金魚は死ぬんだろうな…と思ったからだ。金魚がすくえた友人の家に金魚鉢が運ばれた様子もなかった。それからお祭りの金魚すくいをみると、後味が悪いような後ろめたいような気持ちになったものだ。この句を読んで久しぶりにそんなことを思い出した。金魚の入ったビニール袋は頼りなくって、しつこく触ったらそのまま金魚ごと潰れてしまいそうだった。自分自身が小さな命をどうにでも出来るとゆう恐ろしさとちょっとした優越感。でももしかしたら、私達がいる世界も案外そんなものかもしれない。お祭りの金魚を大きく育てた方、いたら教えてください。


そら豆のみどり玉子焼のきいろ   藤田哲史

一時ものすごく一生懸命にお弁当作りをしていた。もともと料理本を眺めるのが好きだけど、好きな雑誌から刊行されたお弁当本の表紙が、そら豆、玉子焼、牛肉のしぐれ煮だった。
この句の二色を思い浮かべるだけで、当時の弁当熱を思い出した。小さな世界の達成感。
そしてやっぱり、色合いは大切。


炒めると夏の野菜の透きとほる  北川あい沙

以前は、夏になると良く親戚が泊まりにきていた。
窓を大きく開けて、草の匂いがする風の中で賑やかに食事をしたのが懐かしい。
炒めて透きとおる野菜って玉ねぎくらいしか思いつかないけれど、夏野菜は油で炒めると輝くものが多い。茄子、赤いパプリカ、緑のピーマン、ズッキーニ………。
料理をする時に夏野菜が美しくみえるのは、その背後に楽しく幸せな時間が流れている様に感じる。


第267号
佐川盟子 Tシャツ 10句 ≫読む
藤田哲史 緑/R 10句 ≫読む
第268号
北川あい沙 うつ伏せ 10句 ≫読む
第269号
神野紗希 忘れろ 10句 ≫読む
第270号
平山雄一 火事の匂ひ 10句 ≫読む

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