2012-08-12

【週俳7月の俳句を読む】 想像力を逞しくして 小豆澤裕子

【週俳7月の俳句を読む】
想像力を逞しくして
小豆澤裕子



改札にスパイス匂ふ夕薄暑   栗山 心

「下北澤驛前食品市場」と題された十句の冒頭の句。
関西に暮らす私にとっては想像の域を超えないのだが、たしか下北沢と言えば若者の街・ファッションの街という印象だったが、どうやらそれだけでは無いらしい。掲句に「香る」ではなく「匂ふ」との表現が有るところをみると、きっとそこは洒落たショップの並ぶだけの街ではなく、新旧が混在するかなり興味深い雑多な街のようである。

日盛の自転車押して市場かな
  同

その町にぽっかりと口を開けた「食品市場」に吸い込まれてゆく。細い通路の両側に小さな店が犇めき合い軒を連ねる。その細い通路に溢れんばかりに商品が積み上げられ、賑やかに人が行き交う。当然自転車は押して行かねばならない。

劇場へ近道ありぬ梅雨晴間    同
夏座布団二枚重ぬるマチネかな  同

市場の細い通路が劇場への近道なのか。辿り着いた劇場は昼席。疎らな客席の隣の座布団も拝借して、優雅に昼席の贅沢な時間を楽しむ。

蚊遣火やカフェ店員の鼻ピアス  同

ああ、やはり混在している。「蚊遣火」と「鼻ピアス」が楽しい。

移転先を告ぐるポスター夏灯   同

ここもまた、御多分に漏れず再開発とやらで移転が進められているのか。戦後の闇市の名残の場所がまた消えてゆく。
しかし「移転先」での新しい営みがすでに始まっている訳だから、センチメンタルな状況ではないようだ。「夏灯」が生命力のようなものを感じさせる。
ごくありふれた日常の中の極々小さな発見・出会いがそこにある。「下北沢駅前」は一度も訪れたことは無いが、10句を読み終えて、駆け足ではあるが一巡りしたような気になっている。何やら懐かしい場所になった。


第271号
栗山 心 下北澤驛前食品市場 10句 ≫読む
第272号
生駒大祐 水を飲む 100句(西原天気撰) ≫読む
第274号
小池康生 光(かげ) 10句  ≫読む
第275号
御中虫 もようがえ 10句  ≫読む

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