2012-09-02

牛の歳時記 第11回 干草 鈴木牛後

不定期連載】 牛の歳時記
第11回 干草


鈴木牛後


草を干す夜空に高くうしかい座  安田豆作

干草 牛馬の飼料にするため、夏の花が咲く頃、草を刈って乾草させること。…刈り取った草は、地面いっぱいに広げて干し、夕方集めて積み上げる。夏の太陽を受けた干草からは、なつかしい強い臭いがする。(角川俳句大歳時記)
掲句は、先々週日曜日の北海道新聞「日曜文芸」欄に掲載されていたものだ。一読して掲句の持つ豊かなイメージの広がりに魅せられてしまった。

「うしかい座」という星座は北斗七星のすぐ近くにあり、夏の空高くにかかっているらしい。私は実は天文にはあまり詳しくなく、この句を目にしてから慌てて調べて知った。しかし、「うしかい座」という名前の星座が一面の干草の上にかかっている、という景を想像しただけでとても豊かな気持ちになる。

草を干すという作業、それは季節のある地域で牛が飼われるようになってから数千年、毎年世界のいたるところで行われてきた。そのような歴史の積み重ねの1ページとして我が家の周りでも草が干されている。今よりもっと星を大切にしてきた長い時代、「うしかい座」の下で、現在と全く同じようにかさかさと静かな音を立てながら草が乾いていったのだ。

ところで、歳時記の解説には「夕方集めて積み上げる」とあるが、牛の仕事に携わって20年、積み上げられている干草を見たことはない。この歳時記はもっとも新しい部類に属するのだから、もうちょっと考証をきちんとしてほしいという気がするのは欲張りすぎだろうか。

草を積み上げることを「ニオ積み」というが、いつ頃まで行われていたのかは私にはよくわからない(豆は現在でも積まれて乾かされている)。現在は、干草(一般には「乾草=かんそう」)は機械でロール状に梱包されている。この記事のトップの写真にあるのがそれだ。北海道の風景写真などで馴染みだ思う。

フォークによるニオ積みから、大型機械による牧草ロールへ。作業の様子は変わっても、変わらないものがある。それは乾いてゆく牧草の色と匂いだ。

刈った直後は言うまでもなく草そのものの色で、匂いはいわゆる「草いきれ」。私などはもうすっかり慣れているが、嗅いだことのない人はちょっと驚くかもしれない。晴れていれば次の日には、草は淡いさみどりとなり、ほのかに甘い匂いとなる。そして3日目。ごく淡い緑色の乾草に仕上がり、心地良い香りがあたりに広がっていく。この匂いをアロマオイルにしたら大人気になるのではないかと思うほどだ。

この2日目の夜、あくる日の好天を約束している星空。もちろん「うしかい座」も澄んだ空に存在感を主張している。家の中にまで乾草の匂いが入ってくるわけではないのだが、気分的には干草に包まれているような感覚になったりもする。だがそれも一瞬のこと。昼間の作業の疲れもあって早々に眠りに落ちてゆくのである。

人送るあひだに草の干されゐる  牛後


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3 コメント:

匿名 さんのコメント...

草を干す夜空に高くうしかい座 豆作
俳句に未熟者です。教えて下さい。うしかい座は、夜空に、高いものではありませんか?。重複していると思います…が?。お教え下さい。

あめを さんのコメント...

重複していると捉える(ネガティブ)か、念押しと捉える(ポジティブ)か、それは読む人が決めればいいことだと、思うのですが、いかがでしょう?

匿名 さんのコメント...

ありがとうございます。
要は読み手の受け取り方ですね。
勉強になりました。