2012-09-30

林田紀音夫全句集拾読233 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
233

 野口 裕





雪の樹に雪着けて皆急ぐひと

星のいくつか雪の樹の明るさに

振り返る雪の樹いつか風の樹々


昭和五十九年、未発表句。このあたり、雪に関する句が二十句近く並ぶ。その中の「雪の樹」についての連続した三句。昭和五十八年「海程」の発表句に、

  雪の樹に星出てよりのなつかしさ

  雪の樹風の樹或るときは訣れの樹


がある。発表後も、句をいじっていると解すべきだろう。書き出した三句のうちの最終句あたりを発表できる機会が紀音夫にあれば、と言う気もしてくる。


幼年の切手をなめて遠い雲

昭和五十九年、未発表句。マドレーヌが切手に変わったような印象を受ける句。大人が切手を舐めるとは、水を含んだスポンジを探す手間さえ惜しむほど多忙だったということか。舐めた瞬間に、記憶が鮮やかに甦ったのだろう。ただし、「遠い雲」は弱い。容易に有季句に変貌し得る。


身を硬くして寝る星が遠くなり

昭和五十九年、未発表句。昭和五十七年、未発表句に、「星のいくつか身を硬くして眠るため」があり、すでに取り上げた。ここにまた登場するのは、かなりの未練を残している証拠にはなる。


またひとつ家路の星を見失う

昭和五十九年、未発表句。あっさりした句だが、繰り返し咀嚼できるような奥深い味わいがある。見失った星を見つけてはまた見失うの繰り返しが、日々の生活ではあるだろう。

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