2012-09-02

【週俳8月の俳句を読む】帰省 今泉礼奈 

【週俳8月の俳句を読む】
帰省
今泉礼奈



車窓は夏いきなりに街立ち上がる
 村越敦

作者は電車に乗っているのだろう。車窓から見える外の世界を自分がいる世界とは切り離して捉え、そこを夏だと言い切る。立ち上がる、という言葉は飛び出す絵本のように街が見えてくる様子を感じさせる。その2つを繋げている言葉、いきなりに、は単純で明快。とても気持ちのよい1句である。

ミルクセーキあまくて遠き港かな
 同

思わず「甘い」と眉間にしわをよせながら呟いてしまいそうな、ミルクセーキの甘ったるさ。遠くには港がある、ただそれだけである。そのゆるくてぬるい時間を夏の気だるい空気が包み込んでいる。

蔦茂るそのはじまりの蔦隠し 同

この句には蔦しかない。でも、蔦を観察するようにまじまじと見ている人の視線、息づかいまでも感じられる。どこまでも広がっていく句だ。何度も口に出したくなるようなリズムの良さが心地いい。

終電へみんなは走る晩夏かな 同

自分以外のみんなは走っているホーム。晩夏の空気は自分だけを他の世界へと追いやってしまうかのようだ。

私は今、人生で初めての帰省を経験している。故郷の晩夏の空気は、なんだか私に懐かしさとともに虚無感を与える。終電の句で、私は久しぶりに東京を思い出した。故郷から東京に戻ったとき、私は何を感じるのだろう。



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