2012-09-09

【週俳8月の俳句を読む】すききらい 岡本雅哉

【週俳8月の俳句を読む】
すききらい

岡本雅哉



谷口摩耶「蜥蜴」

炎昼の鴉の羽根を踏みにけり  谷口摩耶

漆黒の羽根に含まれた太陽熱のすさまじさに、靴の裏が溶けて羽根はべっとりと張り付いてもう離れない。いや、もはや脚まで炎があがっているかも。

蜥蜴するりと自販機は故障中  同

故障していない自販機の下にいたら、炎天下、機械の放つ熱で蜥蜴はひからびてしまうだろう。直す人が現れませんように。あ、やっぱ冬前には直してあげて。


福田若之「さよなら、二十世紀。さよなら。」

いやむしろ滝は過程が美的じゃん  福田若之

そういえばそうだなるほど……ちょい待った。それは見る派からの意見だよね。でも聴く派の意見からいうと、やっぱり結果として出る音こそが美なんじゃないの。君もこの大岩の上に目をとじて寝ころんでごらん。まちがえた、僕は聴く派じゃなくて寝る派ね。

綾波 一句
二人目のレイの命日ひまわり揺れ  同

僕らはさよならなんて出来ないよ。何世紀たってもヱヴァは再構築されて映画館で上映されるだろうし、綾波だって何度も何度も全身に包帯を巻き、眼帯をして僕らの前に現れるんだ。しかも、揺れているのはひまわりじゃなくて僕らの方だ。


前北かおる「深悼 津垣武男」

夏帽や勝ち逃げされしゴルフのこと  前北かおる

おとうさん、ゴルフに関してはセコかったもんなー。ハンディも多めにあげて、OBも見逃してあげなきゃいけなかったり。最後にプレイしたときも途中まで負けててすねてたのに、最後僕がトリプルボギーで逆転勝ちしたらとたんに上機嫌。後味悪っ。でもそのときこの片山晋呉ばりのカーボーイハットくれたんだよな、「私には似合わないから」なんつって……いい人だったかも……いや、ちょっと待てよ。確か僕がかぶっても似合わなかったんだこの帽子。めちゃくちゃ笑われたんだった!おのれー生き返ってこい、今度こそ勝つ。

テレビつけ遺影と麦茶ひよいと移す  同

画面が見にくかったのかな、ずいぶんあっさりと片づけるもんですね。深く悼むといいながら。でも、明日のお天気ちゃんと見ておかないとね。忌引きで休んでいたから、そろそろ明日から会社行くモードに入らないと。仕事おろそかにしたら故人に怒られるわ。


すきな句ときらいな句とをひとつづつ選んで書いた 九月七日



谷口摩耶 蜥蜴 10句  ≫読む
福田若之 さよなら、二十世紀。さよなら。 30句
  ≫読む  ≫テキスト版(+2句)
前北かおる 深悼 津垣武男 10句 ≫読む
村越 敦 いきなりに 10句 ≫読む
押野 裕 爽やかに 10句 ≫読む
松本てふこ 帰社セズ 25句 ≫読む
石原 明 人類忌 10句 ≫読む


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