2012-10-07

林田紀音夫全句集拾読 234 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
234

野口 裕





絵葉書の水色濃くて昼の日澄む

昭和五十九年、未発表句。水澄む、ではなくて日澄む。ついさっきまで雪の句が並んでいるので書かれた季節は冬あるいは早春と考えられる。日澄むを季語としようなどという気負いなくごく自然に出てきた句。はたして誰から送られてきた絵葉書だろうか。

 

水の音してさくらの夜を誘う

夜は重いさくらの枝の雨ふくむ

ありあまるひかりとなってさくら咲く


昭和五十九年、未発表句。さくら三句。昭和六十年「海程」、「花曜」に、「いちにちの終りまた来てさくら降る」と「風の濃いいちにちさくら花終り」(二句目「海程」は、「終わり」と表記)。発表句、未発表句ともに「さくら」と表記されていることから同時期の作と考えられる。この年のさくらの句はどれも良い。

 

自転車の夕ぞら少女たち群れて

昭和五十九年、未発表句。少女特有の笑い声が聞こえてきそうな句。紀音夫の師、下村槐太に、「河べりに自転車の空北斎忌」がある。作句時に意識していたのは間違いない。こうした句を読むと、忌日俳句は無季俳句と縁続きという気がしてくる。有季と無季の間に明確な仕切りがあるわけでもないだろう。

 

点滴の壁にひとしい何の白

昭和五十九年、未発表句。「定年・顧問」の詞書きあり。虚無といってしまうと簡単だが、点滴には病苦の連続という意識もあろう。紀音夫なりの自祝である。

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