2012-11-25

俳句入門書100冊を読んで ひらのこぼ

俳句入門書100冊を読んで

ひらのこぼ



三十代の頃、仕事で参考にしようと年間100冊と目標を決めてマーケティングや広告関係、経営書などを乱読していた時期があります。せっかくだからと「これは覚えておいて役に立つ」という箇所を選んでダイジェストにしていました。

その歩留まりはせいぜい二~三パーセント。多くても五~六パーセントでした。ポイントのところだけを切り抜いてA4の用紙に貼ってダイジェストを作ると三百頁くらいの本が概ね十頁程度に収まりました。

仕事での経験やこれまでの読書などで知識やノウハウは日々蓄積されていきます。「あぁ、これはもう分かっている」「これは必要なときにそのデータを見れば済むな」といった内容が多くなるのは当然です。

その分野に習熟すればするほど関連書籍の歩留まりは悪くなっていきます(しかし一冊三千円の書籍だとしても、ダイジェスト十枚として、一枚当り珈琲一杯分。それで新しいノウハウや貴重な知識が身につくのなら、それはそれで安い買物だといえます)。

俳句入門書の歩留まりは?

さて俳句関連ではどうでしょうか。入門書や俳書は明治以来驚くほどの数の書物が出版されています。「俳句を作り始めて数年経た人が、こうした入門書や評論などからどの程度の歩留まりで実践的なノウハウを得ることができるだろうか。もう少し歩留まりの高い、実践知識ダイジェストのようなものが作れないだろうか」。そんなことから発想して今回上梓したのが『俳句開眼 100の名言』(草思社)です。

「なんだ、宣伝か」とおっしゃらずにしばらくお付き合いください。読者を俳句づくり数年といった設定で俳書をあれこれみていくと、実作のノウハウに限って言えば歩留まりはかなり低い。とくに入門書となると季語や切れなどの基礎知識が主体となりますからもっと低くなります。中級者向けの入門書でも、それぞれの著者の俳句に対する考え方とか立場に差がありますから「ちょっと違うかな」と感じるところが出てきます。

しかし俳人一人一冊から一テーマと決めていますから、なんとかなるだろうと、入門書や俳書から百冊選び、それぞれの書の中から中級者向けの実践的なノウハウを抜き出していくことにしました。

とりあえず俳句入門書や俳句評論などをアマゾンや図書館のデータベースで検索したり、著名俳人の著書や全集を調べました。その数、ざっと三百冊余り。しかし基礎知識や名句鑑賞、自句自解といったものからはなかなか具体的な「作り方の極意」といったものを掬い出すのは厄介です。内容も心構えや芸談、人生論といった趣のものがかなりの割合で見られます。

波郷の「俳句は私小説だ」などは、波郷の「俳句とはなにか」に対する答えではあっても具体的なハウツーではありません。兜太では「俳句造型論」が知られています。自句の「銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく」が生れた背景を紹介しながら解説されていますが「さあ、自分で作ってみろ」と言われたら途方に暮れます。

万太郎や草城になにかいい箴言はないかと全集とかでも探しましたが、どちらにも実作の手引きといったものが見当たりません(あるのかも知れません)。

俳句の再入門書はこれがおすすめ!

一方収穫もずいぶんありました。あれこれ読んでみて「これはいいな」と思った入門書を少しあげてみます。

「もう一度俳句について基本を学んでおこう」という場合には「俳句入門三十三講」(飯田龍太著)や「俳句入門」(秋元不死男著)などがおすすめ。「実作の基礎体力をつけよう」ということなら、俳句のトレーニングブック「20週俳句入門」(藤田湘子著)があります。

「ともかく実作のためのヒントが欲しい」という方に実践的な俳書を三冊選ぶとすると、まずは例句が豊富で作句のヒント満載の「秀句誕生の鍵」(磯貝碧蹄館著)でしょうか。

次に茶道誌に連載されたものが一冊になった「俳諧無辺 俳句のこころを読み解く36章」(小島厚生著)。これは「俳句で楽しく、でも真面目に遊びたい」という向きに格好のノウハウ書だと思いました。

最後が「槐庵俳語集―俳句真髄」(岡井省二著)。同人誌「晨」での選評を集成したものです。含蓄に溢れた語録、しかも実践的なノウハウにもなっています。

実践的知識としての例句選び

名言(極意)選びは、あれこれ寄り道もあって思いのほか時間がかかりました。いざ選んでみると重複するものも結構あります。何度か選びなおして、なんとかほぼ百冊の俳書と百の極意(名言)を決めました。これで目処はついたはずです。ほっとしたような気分になります。それが今年の初めでした。

でも本当に大変なのはここからでした。それぞれのテーマに即した例句選び。これに手こずりました。まず自分が気に入った句、いいと思った句をかなりの数、新たにストックしていかないといけません。そしてそのなかからテーマに即した句を選びます。

「これなら自分も作れそうだ」と思えるような実践的な例句を選びたい。そして同じテーマの中でも方向性の違うものを紹介したい。これまでの自著で紹介した句はできるだけ外したい。でも見当たらない。また新しく探す。そんな繰り返しでした。

ということで、これまでで一番俳句漬けとなった一年でした。何冊かでも埋もれていた、いい俳書が掘り起こせていればいいのですが、どうでしょうか。そして読者の方にとっての今回の弊著の歩留まりはいかがなものなのかと気がかりな年の瀬です。




【目次】

第一章 基本を習得する

1 深は新なり  高浜虚子「俳句への道」
2 私意をはなれよ  原 裕「俳句教室」
3 即かず離れず  林 翔「初学俳句教室」
4 見るから観るへ  稲畑汀子「俳句入門 初級から中級へ」
5 大づかみな季語を生かす  廣瀬直人「俳句上達講座 より深い作句をめざして」
6 けふの風、けふの花  中村汀女「中村汀女 俳句入門」
7 小さく詠んで大きく響かせる  橋本鶏二「写生片言 写生俳句への道」
8 確かに見ること  石田波郷「俳句哀歓 作句と鑑賞」
9 球を置きにいくな  堀口星眠「俳句入門のために」
10 季語で大景を整えよ  水原秋桜子「現代俳句手帖」
11 白紙で向き合う  星野立子「俳小屋」
12 ほんのちょっとズラす  辻 桃子「あなたの俳句はなぜ佳作どまりなのか」
13 余韻と連想  原 石鼎「俳句の考へ方」
14 「間(ま)」で転じる  長谷川櫂「俳句の宇宙」
15 一点主義  沢木欣一「俳句の基本」
16 種あかしはするな  楠本憲吉「新版 俳句のひねり方」
17 生活詠と季語  小川軽舟「魅了する詩型―現代俳句私論」
18 短歌は線、俳句は点  鈴木鷹夫「片言自在」
19 モティーフが季語を選ぶ  山口青邨「俳句入門」
20 大景を引き絞る  磯貝碧蹄館「俳句上達の10章」
21 語感の生むイメージ  鷲谷七菜子「現代俳句入門」
22 俳句と追体験  今瀬剛一「俳句・流行から不易へ」
23 季語の概念くだき  茨木和生「俳句入門 初心者のために」
24 一は全  阿波野青畝「俳句のよろこび」
25 俳諧は三尺の童にさせよ  松尾芭蕉「三冊子」

第二章 表現力を磨く

26 俳句は白黒テレビ  飯田龍太「龍太俳句作法 内容と表現」
27 アンバランスのバランス  中島斌雄「現代俳句の創造」
28 季節を香らせる  能村登四郎「俳句実作入門」
29 面白いということ  飯島晴子「俳句評論 葦の中で」
30 俳句は日記  岡本 眸「俳句は日記」
31 単純さの味わい  荻原井泉水「俳句の作り方と味い方」
32 季語の連想力を借りる  小澤 實「俳句のはじまる場所 実力俳人への道」
33 詩的な拡がり  高柳重信「バベルの塔」
34 われ生きてあり  西東三鬼「俳句を作る人に 現代俳句入門」
35 思いを喩える  金子兜太「金子兜太の俳句入門」
36 沈黙の文学  秋元不死男「俳句入門」
37 猥雑さの真実  穴井 太「俳句往還」
38 地名は音感を生かして  佐川広治「俳句ワールド 発想と表現」
39 抽象的写生  後藤比奈夫「今日の俳句入門」
40 俳句は「モノボケ」である  千野帽子「俳句いきなり入門」
41 俳句の凝縮力  阿部筲人「俳句 四合目からの出発」
42 時間が見えてくる句  榎本好宏「俳句入門 本当の自分に出会う手引き」
43 助詞「の」が生む幻想  仁平 勝「俳句をつくろう」
44 壮大雄渾なる句  正岡子規「俳句の出発」
45 映像の復元力  角川春樹「『いのち』の思想」
46 ため息の「間(ま)」  藤田湘子「俳句作法入門」
47 暗誦しやすい句  山下一海「俳句への招待 十七音の世界にあそぶ」
48 否定形の効用  大橋敦子「俳句上達講座 俳句をより新しく」
49 みずみずしさを詠む  岩井英雅「俳句の天窓」
50 季語で力を抜く  正木ゆう子「起きて、立って、服を着ること」

第三章 トレーニング法

51 眼前直覚  上田五千石「俳句に大事な五つのこと」
52 カメラを捨てよ  江國 滋「俳句旅行のすすめ」
53 詩は身辺にあり  皆吉爽雨「写生句作法」
54 象徴とは心の具象化  富安風生「俳句の作り方」
55 俳句スポーツ説  波多野爽波「波多野爽波全集第三巻」
56 微妙な季節感  鷹羽狩行「俳句のたのしさ」
57 言葉の抽斗(ひきだし)  櫂未知子「俳句力 上達までの最短コース」
58 感動を素早く冷やす  池田澄子「休むに似たり」
59 庶民哀歓の呟き  草間時彦「伝統の終末」
60 直感でつかむ  成田千空「俳句は歓びの文学」
61 発見のおどろき  右城暮石「右城暮石俳句入門」
62 平淡の境地  岸本水府「川柳入門」
63 写生の基本は「地理」  岡田日郎「山と俳句の五十年」
64 私に帰る  野澤節子「女性のための俳句入門」
65 都市を詠む  鈴木太郎「太郎の体験的俳句入門」
66 季題を演じる  岸本尚毅「俳句の力学」
67 「や」の働きは三つある  高橋睦郎「私自身のための俳句入門」
68 貧しさの風流  森 澄雄「俳句燦々」
69 こころの鏡  伊藤敬子「新しい俳句の作り方―中級篇」
70 季語で暮しを詠む  清水基吉「俳句入門」
71 食べ物を詠み分ける  鍵和田秞子「俳句入門 作句のチャンス」
72 官能の修練  河東碧梧桐「新興俳句への道」
73 「風土記」を綴る  佐藤鬼房「俳句エッセイ集 片葉の葦」
74 時間を描く  佐藤紅緑「俳句作法」
75 「情」の写生  大野林火「現代俳句読本」
76 読みを利かす  山口誓子「日本の自然を詠む―現代俳句の道を拓いて」

第四章 マンネリを脱出する

77 具体的体験の抽象化  寺山修司「寺山修司の俳句入門」
78 思い出の糸をたぐる  安住 敦「俳句の眼―句作の手引」
79 難解をおそれるな  阿部完市「絶対本質の俳句論」
80 俳句は片言の詩  坪内稔典「俳句のユーモア」
81 自然の真実に感応せよ(真実感合)  加藤楸邨「加藤楸邨初期評論集成 第一巻」
82 第六感で作る  棚山波朗「俳句はいつも新しい」
83 精神の風景を詠む  岡井省二「槐庵俳語集―俳句真髄」
84 ナンセンスにひそむ真実  小島厚生「俳諧無辺 俳句のこころを読み解く36章」
85 連想を紡ぐ  中村苑子「私の風景」
86 滋味のある諧謔  永田耕衣「俳句窮達」
87 ひらきなおり  時実新子「川柳を始める人のために 新子の川柳入門」
88 一片の鱗の剥脱  三橋鷹女「羊歯地獄」
89 内観造型  石原八束「俳句の作り方」
90 精神の強靭さ  柿本多映「ステップ・アップ 柿本多映の俳句入門」
91 川柳というサプリメント  坊城俊樹「俳句入門迷宮案内」
92 記憶を風化させよ  橋 閒石「俳諧余談」
93 直(ちょく)に立つ句  澁谷 道「あるいてきた」
94 通俗の味わい  片山由美子「現代俳句との対話」
95 季題に象徴させよ  中村草田男「新しい俳句の作り方」
96 短さの恩寵  平井照敏「現代俳句の論理」
97 ユーモアに昇華された悲しみ  仁平義明「百人のモナ・リザ ―俳句から読む心理学―」
98 差し向いの淋しさ  田口一穂「俳句とつき合う法」
99 縄だるみの曲線  加倉井秋を「武蔵野雑記」
100 言葉の意味を消す  攝津幸彦「俳句幻景」

2 コメント:

sasazamani さんのコメント...

よさげ、です。買わせていただきますね。

sasazamani さんのコメント...

アマゾンから届きました。いい本ですね。
それと同時に、博学、見識、渉猟の広さに驚かされました。

ひとつ質問なのですが、俳句って、このようにある切り口で紹介していく場合、著作権処理をしないで良い、といった慣習があるものでしょうか。それとも、このような体裁であれば「引用」の範囲ということなのでしょうか。

ただ「引用」と言っても、出典表記はないですよね。

またそもそも、出典表記といっても、句集とはならず、機関誌に掲載されただけのものも少なくなく、やはり著作権の対象外といった、俳句界の慣習がある、と考えるほうが正しいのでしょうか。