2012-11-04

2012落選展 03 前北かおる 桜 テキスト版

2012落選展 
03 前北かおる 桜 テキスト版

音楽を奏づ即ち春を待つ
ベランダの物に水やり春の雨
クロッカスすらりと白き花柄より
組み上げてツーバイフォーや春日さす
ペットボトル置くや春野の一隅に
洲浜草落葉の中に震へをり
考へる人にも見えて蕨かな
うららかや駅に呑まるるモノレール
石畳撫でて白杖彼岸寺
店先を路面電車や桜餅
空いてゐる優先席に春日さす
城門を潜りて駐車藪椿
反照の中の花数藪椿
前に富士背に上総富士浅蜊搔く
紋様の雑種ばかりや浅蜊貝
ひと筋の潮の隔つる桜かな
下りきし花菜の径かへりみる
忘られし仕事をのせて春炬燵
草枕初鶯にほどけたり
島桜諸船仰ぎて過ぎぬらむ
枝の下に水平線や大桜
大桜の日裏の枝の濃かりけり
懐へ誘ふ径島椿
恋人に背中を預け風光る
昨日来て明日は帰る夕桜
各棟へ道分かれゆく菫かな
防人のありしは昔亀鳴ける
漁りの春の灯火うるむなり
また波に抱かれて帰る若布かな
対岸の都会の背山笑ひをる
ほのぼのと日輪赤き黄沙かな
鵲の巣とは日あたる風とほす
朝桜ロビーに流すモーツァルト
春暁の慶会楼を掃ききよむ
春光や山に嵌りて青瓦台
母と子を囲み卒業写真かな
朝桜白亜の士官学校に
屏風山笑ふ軍港祭かな
のどけしや亀甲船の甲羅干し
糸柳日本の建てし郵便局
春昼の鳩の歩めるイルカショー
丘の上に春の月ある渚かな
深鉢に茹で汁ながら烏貝
烏貝の剥身の朱や湯気の中
へぎ板に身厚に造り桜鯛
連翹や千年荒れてゐし寺と
のどけしや栗鼠追うてゆく奥の院
石仏の眼尻ながし春灯
池ばかり遺れる離宮青き踏む
目つむれば古都の風吹く春野かな



1 comments:

ハードエッジ さんのコメント...

アップロード失敗で再登録、すまんです

気になる句、感想、思い出した句、自作などを書きます

連翹や千年荒れてゐし寺と    前北かおる
  連翹は落葉性低木広葉樹
  あふれるような黄色も
  豪華とは少し違う
  千年の荒廃に通じる気がしました
  「荒れてゐし寺と」という終り方
  「寺の」でも「寺は」でもない
  ほどよい硬さもよかったです

千年の留守に瀑布を掛けておく   夏石番矢
千年やべつたら漬の神として   佐々木六戈
連翹や人の背丈を越えてなほ ハードエッジ 2012.11.9

空いてゐる優先席に春日さす   前北かおる
  人がいないことも暖かいです

池ばかり遺れる離宮青き踏む   前北かおる
  石を持ってきたら月並
  池があって楽しさ倍増です

忘られし仕事をのせて春炬燵   前北かおる
  「のせて」という
  他人行儀な言い方がおかしいです

鵲の巣とは日あたる風とほす   前北かおる
  「日あたる風とほす」がかろやか

昨日来て明日は帰る夕桜     前北かおる
手花火に明日帰るべき母子も居り  永井龍男