2012-11-04

2012落選展 15 藤 幹子 カレー係 テキスト版

2012落選展 
15 藤 幹子 カレー係 

うぐひすや十指重ねて遠眼鏡
凧揚げや触りたくなき海触る
カンタベリー司教蜂の輪を頂く
わらび餅講談調の引越し屋
ちりめんへだからだからとくりかへす
新入生ヤマザキヤマザキパンと唱へ
花冷や首にひび在る鳩サブレ
投票所花と緑の色の紙
連凧のひきづる雲も胃も臍も
海軍のカレー係に五月来る
夏近し手套のエレベーターガール
悪童の口より躑躅あふれさせ
万緑や鼻より犬の朝始まる
苺から苺へ五指のさざ波す
五月雨や犬の耳垢耳の中
口中にモスク沸きたつ抜歯かな
抜糸していつわたしの子蛾になれる
修正のセル画重れり誘蛾灯
薄命にあらず日傘を回しけり
カルピスを世田谷流に割るといふ
物の怪に話しかけむと紗を裂きぬ
顕微鏡泉に振りかざしてゐたり
浴衣みな着くづれてゐる屋根の下
冷房車二十年後もここにガム
深海にあらば水母に良き匂ひ
青嵐森はスーラの筆に追はれ
ゆで卵三日クーラーから汚水
カナッペを空蝉はづす指づかひ
向日葵と目と目を合はせ深爪す
しちりあ産れもんや淡彩画家の脛
へうたんへ歯を見せてゆく幾人か
秋茄子や色無き深海魚の話
唐辛子きみらは立つて用を足す
アラブ馬空高々と交接す
ミッフィーのおうちに火の気なき夜長
カンナ燃ゆ中学生の眼にガーゼ
ブランコの撤去作業や小鳥来る
枯野へと踊るドアベル手風琴
石膏の少女の型やペチカ燃ゆ
クトゥルフにおでんを司る神が
冬の田へ神器のごとくレフ板来
湯豆腐食ふ時々四次元の生まれ
くさめして王に春情兆すかな
鞄には印鑑ラッセル車近づく
閉架書庫木菟の目木菟の耳を借り
盗作をして来し顔や初鏡
この人を見よ鯖雲へ火の腕
アイロンの息白ければ立ててやる
蝋石や寒暮へはづめ汽車と貨車
漕いでも漕いでも毛布や赤子泣く


2 comments:

ハードエッジ さんのコメント...

注目句
薄命にあらず日傘を回しけり    藤 幹子
冬の田へ神器のごとくレフ板来   藤 幹子

minoru さんのコメント...

気になる一句
「花冷や首にひび在る鳩サブレ 」
取り立ててこの一句というよりも、この句を含め、一連の作品の素材の選択とその取り扱い方が作者独特と感じられて、とても面白かったです。