2012-11-18

林田紀音夫全句集拾読 240 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
240

野口 裕





盆燈籠廻るひそかに海を描き

昭和六十年、未発表句。廻り燈籠または走馬燈とは別物の盆燈籠もあるようだが、ここでは廻り燈籠の意で使われている。海は、燈籠流しからの連想か。仏教習俗に由来する句の多い紀音夫には自然な句。発表に至らなかったのは、無季の句を優先したためだろう。

 

蝋石の線よりのびて車輪の輪

昭和六十年、未発表句。幼時の遊びの記憶とも思えるが、蝋石が鉄工所や建設現場で使われることから、紀音夫の職場に取材した句と考えられる。蝋石の線を目で追いかけると、車輪に行き着く。一次元の線が三次元の立体を生み出したような錯覚を、句のレトリックで達成する。紀音夫には珍しい行き方である。

 

穂芒に痺れて遠い指ばかり

昭和六十年、未発表句。紀音夫がパーキンソン病の患者であることを補助線として読めばわかりやすい句だが、逆に言うと、補助線を引かなければわかりにくい。紀音夫の句で「遠い」とあれば、大体遙かな過去というところだったが、この頃の未発表句にそうした含意を感じることはない。

俳句の特性が現在・唯今にあることを知悉しているだけに、彼にとっては書きにくい時代であったろう。だが、それを越えて、淡々と句作をこなしているように見えるところも紀音夫らしい。

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