2012-12-16

林田紀音夫全句集拾読 244 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
244

野口 裕





朝空のひそひそと照り蜘蛛の糸

昭和六十一年、未発表句。蜘蛛の不在証明。


声消えてプールの夜を迎える水

昭和六十一年、未発表句。第二句集に、「夕べプールの声に流弾ひとつまじる」。

この頃の句には、かつての句材に込め得た象徴や幻想を、おだやかに消して行くような面がある。高柳重信の言、「言わば林田紀音夫の方法は、その 作家の身の丈どおりにしか書けないような実に正直な書き方である。したがって、次第に年老いて身の丈が縮むと、それだけ俳句も縮んでくるであろう。」を、 巻末の解説で福田基は引用している。この言葉自体は昭和五十年代、この句よりも十年ぐらい前になるようだ。

予言者の発言を実証するかのような成り行きは、高柳重信の先見の明とともに、予言通りに行動する、行動せざるを得ない古典的悲劇の登場人物を髣 髴とさせる。その意味で、紀音夫の行き方は個人の性癖であるとともに、第二次世界大戦後の日本の軌跡がそうさせている面があるはずだ。飯田龍太、森澄雄に 代表する、いわゆる前衛俳句から伝統俳句の流れが俳句史の陽画とすれば、紀音夫の航跡は陰画にあたる。

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