2013-03-17

林田紀音夫全句集拾読 257 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
257

野口 裕





雨後の空いつかさくらの夜となる

昭和六十三年、未発表句。昭和六十三年も、さくらの句が集中して登場する。四百二十八頁の二十八句中、十一句がさくらの句。盛りを過ぎたさくらなら、雨に散ることも心配しなければならないだろうが、このさくらはそうでもない。雨による陰鬱な気分も幾分か解消したようだ。

 

菜の花の翳を捉えて道路鏡

昭和六十三年、未発表句。カーブミラーに菜の花が映っている。菜の花が作る翳なのか、菜の花にかかる翳なのかを不明だが、明るい風景のネガの部分に反応するのも紀音夫の習性。無骨なカーブミラーが自身のカリカチュアとも見える。

 

残るさくら草野球また声あげる

昭和六十三年、未発表句。歓声のたびにちらりちらりと目を野球にやるが、すぐに葉へと移りゆく花に視線を戻す。この年を以て昭和が終わるとは、この時点で思いもしていないだろうが、昭和への輓歌のようにも見える。

 

松の花海の汚れをまのあたり

昭和六十三年、未発表句。なんとなく季語にとってつけたような感触が残る。句のテーマからして無季の句になり得る。したがって、後日書き換えるつもりで季語を適当に付けたのではないか。とすると、この句の発展形となる発表句があるかどうかが問題になるが、平成三年「花曜」の「埋立ての沖へ微弱な日を漏らす」あたりが候補になるかと思う。推敲にかかっている三年ほどの歳月は、紀音夫ならばあり得る。

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