2013-03-03

【週俳2月の俳句を読む】切実さと白いご飯と 対中いずみ

【週俳2月の俳句を読む】
切実さと白いご飯と
 

対中いずみ


巣立ったら槐の枝へ行くつもり  皆川 燈

巣立つ直前の雛になりきった句。
きかん気の少女のような口吻がストレートに胸に届く。
どうしても槐の枝に行きたいのだ。
巣立ったなら。大人になったら。 
すぐそこに見えている槐の枝。
でもまだ今は行けない。飛べない。
もうすぐ。うん、もうすぐ。
少し悔しさのにじむ、こんな強い願望を、最近、私は持っていないな、と思う。
そう思いあたったとき、この句がぐっと切実に迫ってきた。


奥の間に低く飛びゆき春の蠅  岩田由美

積み上げし本のあたりを春の蠅

兄弟の間を通る春の蠅

手の甲に止まりし春の蠅を見す

春の蠅四句。 
蠅自体は夏の季語だが、夏の蠅は大きくてぎらぎらしている。
春の蠅となると、まだ生まれたての小さなもので、少し頼りない感じがする。
あまり例句を見ないので新鮮だった。
四句、それぞれに良く、この作者の平均打率の高さが思われる。
一句のインパクトという点では四句目、二句目・三句目の臨場感もいい。
好みだろうが、私は一句目の何でもなさに惹かれる。  
「低く」飛ぶことが「春の蠅」の風情である。
「奥の間に」という上五、さりげなく詠まれているようで、なかなかには言えない。
苦労の跡を消して、何でもないような顔をしている。
上質の炊きたての白いご飯のような句だ。



第302号 2013年2月3日
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第303号 2013年2月10日
照屋眞理子 雪の弾 10句 ≫読む
第304号 2013年2月17日
皆川 燈 千年のち 10句 ≫読む
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