2013-06-02

林田紀音夫全句集拾読 268 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
268

野口 裕







雨傘をたたむひとすじ蜘蛛の糸

平成二年、未発表句。傘をたたんだ拍子に、傘に引っかかっていた蜘蛛の糸がきらりと光りつつ揺れたか。芥川龍之介作の童話をも脳裡に宿らせたか。瞬間を切り取る技の冴えを見せた句。

 

鏡を抜けてさびしさ募る街へ出る

平成二年、未発表句。卑近に解釈するなら、鏡の前で用紙を整えてからの外出だろう。鏡の中の虚像が街へ外出したと見立てるのは、面白すぎるか。さびしさ募る街は作者の心理の投影であり、あてのない外出なのだろう。これも老境の一風景である。

0 コメント: