2013-06-16

【週俳5月の俳句を読む】今泉礼奈 夏がくる

【週俳5月の俳句を読む】
夏がくる
 

今泉礼奈


音たてて雨が苺の花に葉に   菊田一平


雨が音をたてる、その音を聞いて、私は雨が降っていることを知る。顔を上げれば、そこにある苺の花に、さっき音をたてていた雨が落ちる。花の上のしづくが流れて、葉にも。
この、まるでつくられているかのような、ひとつひとつの丁寧な動き。「花に葉に」の音の響きも心地よい。きっと、雨も心地よい。

にぎやかにしやがみホームの遠足子   同

田舎の駅のホーム。遠足に行く子どもと先生と、あとは主婦が数人だけの昼前。一時間に一本しか来ないような電車を、みんなで待つ。鞄や水筒はみんな置いていて、ひとりふたりとしゃがみこむ子は増えていく。先生は注意するかもしれない。でも、その景色は、あかるい。まさに「にぎやか」な様子だ。「にぎやかにしやがみ」の平仮名の並びも、あかるい。
私は、こういうとき、しゃがみこまずに我慢して立っている方だったのだけど。

息かけて古レコードの黴を拭く   金中かりん

黴の生えている古レコードに顔を近づけて、息をそっとかける。レコードを見る、拭く。「息かけて」、と一呼吸おいて、ゆったりとした時間を生み出している。黴なんて嫌なものだけど、この句では、そういった感情が一切見えない。黴が生えたって、大切なレコードはレコードに変わりないのだ。
私はレコードを見たことがないけれど、レコードの句を詠みたいと思ってしまうのは、なぜだろう。

牡丹散って螫虫の屍へかぶさりぬ   金原まさ子

牡丹は遠くから見るのと、近くから見るのと、ずいぶん印象が違う花だと思う。私は遠くから見るのが好き。だけれど、この句の牡丹はなんだか好き。牡丹が薄汚れてから散るのは、もしかしたら螫虫の屍に上手く溶け込むためなのかもしれない、と思ってしまう。

九階から上半身出す聖五月   同

九階って、かなり高い。身を乗り出したくなるような、高さ。聖五月も、身を乗り出してしまいたくなる季節であり、季語。

さあ、俳句甲子園の地方予選がはじまります。


第316号2013年5月12日
菊田一平 象 10句 ≫読む

第317号2013年5月19日
金中かりん 限定本 10句 ≫読む

第318号2013年5月26日
金原まさ子 セロリスティック 10句 ≫読む

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