2013-07-07

林田紀音夫全句集拾読 273 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
273

野口 裕







戦争が星にまぎれて甦る

平成三年、未発表句。「湾岸戦争」の詞書。当時、空爆の様子がよくテレビに流れ、立て続けに流星が飛んでいるようにも見えた。「星にまぎれて」は、それを指しているのだろう。

すでに老境であるが、「紅旗征戎我が事に非ず」とならないのが紀音夫の感性である。事態に即応して時事句を発表する機会は、紀音夫にはなく発表句としては、平成四年「海程」に「日の翳るまで戦争の沖を見る」、同年「花曜」の「何時も何処かで戦争の惨錆いろ」を待たねばならない。

 

やがて三月海みて山を振り返る

平成三年、未発表句。風の寒さが緩んできたことを敏感に感じ、背後を振り返る余裕を得た。「山みて海を振り返る」とやると、少し締まらない心持ちが残る。視線の移動の中にある微妙な上下動の差がそうした感触を生み出すのだろうか。

 

桃挿して早く夜がくる枕許

平成三年、未発表句。老境に珍しく訪れた華やぎ。夜と桃の取り合わせとなると、三鬼の「中年や遠くみのれる夜の桃」があるが、枕まで登場させてエロチシズムと無縁に感じるのは作者名のせいか。


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