2013-07-14

【週俳6月の俳句を読む】読むこと、あじわうこと 松尾清隆

【週俳6月の俳句を読む】
読むこと、あじわうこと

松尾清隆


蜃氣樓臭きを奥の間に通す  間村俊一

後半の「奥の間に通す」から察するに、「蜃気楼臭」いのはおそらく人か風だろう。辛気くさい人、といった言い方に語感が似ているのも楽しい。風である場合も同様に、一体どんなふうであるのかと想像する楽しみがある。


鉄線花週に一度の肉の皿  石井薔子

節制のためか、肉は「週に一度」と決めているらしい。肉食を避けることには脱俗のイメージが付随してくるが、ここでは完全に断っているわけではなく「週に一度」と具体的であるところに妙なリアリティーが生じている。


赤茄子や戦を知らぬ母その他  秦 夕美

「母その他」と、戦争を知らない者の代表として「母」を配したところに深い洞察が感じられる。今日、母性を戦争とは対局にあるものとする言説を多く目にする。だが、かつて兵士の供給源として母性が利用された時代があった。何かそういった思いが一句の背景にありそうだ。


陶枕に穴遠くから人がくる  永末恵子

陶枕にある穴が機能上あけられたものか、製造過程で必要なものであるのか、寡聞にして知らない。この「陶枕」を見るために、遠くから「人」が来るのだとも読めるが、両者の関係は曖昧なままにして味わうのが正確かもしれない。


翡翠の川面の色をはがしけり   飯田冬眞

500系新幹線がカワセミの嘴の形状を模してデザインされたことはよく知られている。空気抵抗を最小にとどめ、すばやく目標(小魚など)へと達する。そのため、われわれが気付く時点で狩りは終わっている場合が多い。そうした認識のありようがよく伝わる一句。「川面の色」は獲物の鱗がきらめく様子とも、カワセミの羽の瑠璃色とも読める。


以上、一句ずつ引かせていただいた。読み解くことの愉しみ、味わうことのここちよさ、その微妙な差異のようなものを感じた。


第319号2013年6月2日
閒村俊一 しろはちす 10句  ≫読む

第320号 2013年6月9日
石井薔子 ワッフル売 10句  ≫読む

第321号 2013年6月16日
秦 夕美 夢のゆめ 10句 ≫読む

第322号 2013年6月23日
永末恵子 するすると 10句 ≫読む

第323号 2013年6月30日
飯田冬眞 外角低め 10句 ≫読む

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