2013-07-14

【週俳6月の俳句を読む】その瞬間 小林鮎美

【週俳6月の俳句を読む】
その瞬間

小林鮎美


白玉を水に放つや心揺れ     石井薔子

長嶋有の小説『ねたあとに』の中で、カップ焼きそばのお湯を捨てるときにシンクが鳴るときの音が悲しいって色んな人が言う、という件がある。そういうふうに、気持ちが湧き上がってくる瞬間って、誰にでもあるものだ。

私は学生時代にファミレスでバイトしていたので、和風パフェを作る際などに、白玉を水に放ったことがある(ファミレスのパフェってウェイトレスが作るんですよ)。水の中に広がっていく白玉は、白くてつるつるしていて、とても自由な感じがした。私はさわやかさしか感じなかったけど、この作者はもっと別のものを感じたんだろう。

その自由に広がっていく感じに、無意識に自分を重ねたのか、それとも誰かを重ねたのか。そのせいで動揺したのだと思う。なんとなく、その気持ちがわかる気がした。


右を見て左はげしき青葉かな  永末恵子

そのものだけを見ていると、基本的なことに気がつかなかったりする。恐らくこの作者は、今まで左側にある青葉を真正面で見ていたのだろう。そのときはたぶん、なんとも思っていなかったのだ。

視界の真ん中にあるのは街なのか、野原なのか。読者にはそれすらわからない。なのに、視界の左端にある青葉から、生命力にあふれた美しさを感じることができる。



第319号2013年6月2日
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第320号 2013年6月9日
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第321号 2013年6月16日
秦 夕美 夢のゆめ 10句 ≫読む

第322号 2013年6月23日
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第323号 2013年6月30日
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