2013-08-18

林田紀音夫全句集拾読 279 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
279

野口 裕





鴨泛いて雨の水輪ひとところ

平成三年、未発表句。「昼の月」に続いての句。前句の詞書を受けているのかどうかは、よくわからない。「泛」の人文字が共有されていることで、連続しているようにも受け取れる。水面すべてに雨はかかっているのだろうが、鴨とのコントラストで目立つ水輪だけが意識される。

 

風花の道に出てまたひときり

平成三年、未発表句。タイプミスではない。四百四十二頁第一段五句目に、タイプしたとおりの表記で出ている。誤植か、句帳に書きつける際のミスか。

「ひとしきり」、「ひとりきり」、「ひとつきり」、思い切りひねくれて「ひときたり(人来たり)」等々、様々に考えられるが、紀音夫句の習性から言えば「ひとしきり」だろう。歩みを止めて、上空をしばし見入る老境ということか。

 

眼鏡くもらせて歳晩海へも来る

平成三年、未発表句。老境に入ってからの眼鏡であろう。歳晩とダブるように、晩年が意識されている。


会者定離おでんに眼鏡くもらせて

平成四年、未発表句。年をまたいでいるが、前掲句との制作時期は近い。「海」の含意が茫漠過ぎることの反省から、作り替えたのだろう。一転、分かり易すぎたか。

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