2013-08-04

計算機器 林田紀音夫句集余談雑談 野口裕

計算機器
林田紀音夫全句集余談雑談

野口 裕



林田紀音夫の句集をあれこれと読んで長くなるが、ついに計算機器類についての句には巡り会わないままになっている。紀音夫は今宮工業学校出身で、豊川鉄工株式会社取締役設計部長が職歴にあるから、機械のあれこれにまつわる計算は否応なくやっていたはずである。算盤、手回し式計算機、計算尺、電卓、関数電卓等々一通りの計算機器類は扱ったのではないだろうか。年齢からして、コンピュータを扱ったとは考えにくいが。

 

一九八〇年前後に、算盤付き電卓というものが世に出たことがある。よく売れたらしい。
http://www.dentaku-museum.com/calc/calc/1-sharp/6-sorocal/sorocal.html

算盤は足し算引き算が得意で、慣れた人なら電卓をぽちぽち叩くよりも速く計算が出来た。したがって、足し算引き算を算盤でやり、掛け算割り算を電卓で叩くというのが一番手っ取り早いという一定層が存在したためであろう。年齢的に紀音夫が使っていても不思議ではない。はたして紀音夫は使っていただろうか。

 

すでに電卓の普及が一段落し、低価格化競争が始まりかけた頃に、当方は大学院生だった。その頃の研究室の一隅にタイガー計算機なるものが鎮座ましましていた。

http://www.tiger-inc.co.jp/temawashi/temawashi.html
好奇心から、回してみたことがあった。2×3なら、2をセットしてからハンドルを3回まわしたかと思う。計算が終わると自転車のベルのような音が鳴り、回している途中の歯車の擦り合う音と相まって賑やかな機械だなという印象だった。研究室に古くからいる人が、昔はよう使たなあと、懐かしげに言っていたのを覚えている。これは、紀音夫も使っていただろう。

 

理学・工学系統の計算の多くは、足し算引き算ではなく、掛け算や割り算が主になっている。なぜそうなっているのかも興味深い問題だが、それは置いておくとして、そうした理工学用の計算に最適な道具が計算尺である。

http://www.keisanjyaku.com/sliderule/hemmi150/hemmi_150.html

当方も中学時代に原理だけは習った(おそらく計算尺を授業で取り上げた最後の世代だろう)が、それ自体は簡単である。色々な目盛りが並んでいるので取っつきにくいが、2を表す長さに、3を表す長さを足すと、6を表す長さになっていると考えれば良い。長さが狂ってしまうと、用をなさないので長さが狂いにくいよう本体は竹材を使っている。

面倒なのは、130×230なら、1.3×2.3を計算尺で計算し、

 130×230=(1.3×100)×(2.3×100)

となるので、計算尺の結果に、×10000を加えるところだろう。計算が少々複雑になると、この操作が間違えやすい。少々の慣れが必要である。

 

電卓普及をさかのぼること何年か前には、電卓は高嶺の花だった。大学1年の実習で、全員がデータを取り終わった頃に、部屋に一台しかない電卓の前には長蛇の列が出来ていた。列の後尾に並ぶのは時間がかかりそうで、嫌だなあと思っていたところに、誰かが呉れたポケット計算尺(手土産代わりか、どこかの会社のネーム入りだった)が鞄の底に眠っていたのを思い出した。少しくらいの計算ミスは誤差のうちだと、強引に計算尺だけで計算を済ませてレポートを提出したことがある。こちらがレポートを提出し終えても、列はまだ長いままだった。

その後、何のクレームもなかったところを見ると、中学以後に使ったことのなかった計算尺での計算は合っていたようだ。そんな思い出もあってか、今も職場のキャビネットの隅にある計算尺を廃棄しにくい。

 

計算尺はエンジニア必携であったので、紀音夫自身は達人であり、愛着もあったかと想像する。現在、全句集の四百四十頁あたりを読んでいるが、残りは十五頁ほど。これまで読んだところで読み落としはなかったか。これから読むところにはたして出てくるのか。砂金の粒を探すような作業は続く。

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