2013-09-08

きくのきせわた 橋本直

きくのきせわた

橋本 直



鱈の白子のことじゃありません。秋の季語です。「菊の被綿」などと書きます。

ある調べ物をしていて『広辞苑』を引いていた時、たまたま出くわしたことばで、

  かわ‐すがき【川簀】 流水をふさぐためにかけた竹のしがらみ。
というのがありました。ああ、最近は金属製だけど、流れに柵をたててごみとかを引っかけるようにしてあるあれのことか?と納得しかかったのだけれど、いや川の流れをところどころでコントロールするようなものかもしれず、なんだかよくわかりません。で、ググってみてもからないし、画像なんかもでてこない。しかし、

  ふらすこやきせ綿をとく川簀垣  朝叟

というなんとなくしゃれた感じの句にあたりました。これは、宝井其角が編んだ俳諧集『焦尾琴』の中に収められているそうです(参照元http://kikaku.boo.jp/haibun.htmlざっと調べた範囲で同書は影印本しかでていないようなので、一部とはいえ翻刻がWeb上にあるのはありがたいことです)。「川簀垣」で「かわすがき」でしょう。しかし、どうも句意がよくわからない。

朝叟(ちょうそう)は江戸時代の俳人で石内氏。嵐雪門ですが其角にも学んでいます。「ふらすこ」はあの理科の実験に使うフラスコと同語ですが、江戸時代には「酒瓶」とか「瓶」の意味で用いられたそう。「きせ綿」が季語で「菊の被綿(きくのきせわた)」のこと。夏井いつきさんの『絶滅寸前季語辞典』にもでている季語の絶滅危惧種です。『広辞苑』によれば「菊の花に綿をおおいかぶせたもの。重陽の節句(陰暦九月九日)の行事で、前夜、菊の花に綿をおおって、その露や香を移しとり、翌朝その綿で身体を拭うと長寿を保つという。きせわた。きくわた。きくのわた。 季・秋」とあります(余談ですが井上井月の句が収められている句集の名に『きせ綿』があります)。したがって、重陽節の折の句ということになります。だから「ふらすこ」はたぶん菊酒をいれるためのものでしょう。

『広辞苑』には「説明の身体を拭う-」とありますが、綿に色をつけて愛でて楽しむものでもあった模様です。改造社『俳諧歳時記』や角川『図説大歳時記』をみると説明がいろいろあるのですが、「東京の祭り」(下記アドレス)などが一つの参考になります。

http://members2.jcom.home.ne.jp/ichikondo/09%20chouyounosekku.html

ところで、「きせ綿をとく」とはどういうことなのでしょう? 素直に読むと、かぶせていた綿を菊花からとく、ということかと思います。そうすると、川簀垣のある小流れで菊酒を飲みながら菊から解いた綿で身体を拭っている、てな感じなのでしょうか。しかし、どうも語を当て込んだだけの解釈でしっくりこない。この風習にお詳しい方、ご教示くだされば幸い。とりあえず、歳時記などから拾った上記以外の句を。

  綿着ても同じ浮世ぞ霜の菊  支考

  白菊や着せ綿まゐる指の反リ  移竹

  綿着せて十ほど若し菊の花  一茶 以上『俳諧歳時記』

  著綿や老い行く菊の花の貌  蝶夢

  小袖著て日南をありく九日哉  不由

  菊襲殿上月のほのめくに  鳴雪 以上『昭和大成新修歳時記』

  菊の着綿とばされてしまひけり  夏井いつき『絶滅寸前季語辞典』

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