2013-09-29

華麗なるロケティッシュ・ワールド 山田露結句集『ホーム・スウィート・ホーム』を読む 三島ゆかり

華麗なるロケティッシュ・ワールド
山田露結句集『ホーム・スウィート・ホーム』を読む


三島ゆかり



こんにちは。つけたり『悲しい大蛇』の裏表紙にてSpecial Thanksを賜った三島ゆかりです。


1. 虚像・複写・多数への嗜好

薄氷を割る薄氷の中の日も 山田露結

まずはこの句から行きましょう。このモチーフに集約される句が集中何句かあります。「釣瓶より盥へうつす春の月」「映りたる顔剥いてゆく林檎かな」「鏡店出でて一人にもどる秋」。

いずれも眼に映るものがじつはただの虚像に過ぎず、それが破られたことを詠んでいます。また虚像ではありませんが、「鳥帰る絵本の空をたたみけり」も同じグループに含めてよいでしょう。まだ破られていない虚像を虚像と知りつつ玩味している句もあります。「蝶うつる眼で見る蝶の眼にうつる」「鏡にはすべて映らず猫の恋」。

かと思うと、こんな句群はいかがでしょうか。いずれも複写をモチーフとしたものです。「僧の子の僧となりけり竹の秋」「コピーして赤はグレーに昭和の日」「秋祭記憶のごとく父となりし」。

また「ふたつのもの」または「全体と部分」が似ている、とか少し違うというモチーフの句群もあります。「春寒や首細くして姉妹」「うららかや位牌のひとつあたらしき」「涅槃図の外にも人の溢れをり」「かなしからずや殻の中まで蝸牛」「半畳を囲む四畳や夏椿」。

そもそも、同じようなものが「たくさん」ということにセンサーが働いてしまうような面も感じます。「春の川無数に流れゐて頭痛」「われわれに無数の毛穴蠅生まる」「夜の新樹までの襖の無数なる」。


2. 俳句自動生成ロボットもしくはブルース

こうした虚像・複写・多数への嗜好を目の当たりにすると、2009年から2010年くらいの時期に山田露結さんが俳句自動生成ロボットの開発に注力し、ネット上で「一色悪水」「裏悪水」という二体の秀逸なロボットを公開していた事実が、にわかに腑に落ちるもののように感じられてきます。

何を隠そう、最初にロボットのヒントとなるソースプログラムを露結さんに提供した諸悪の根源は私でして、それが裏表紙の所以なのです。

ところで露結さんは知る人ぞ知るブルース・ギターの名手でもあります。つい先日、ソースプログラムを提供してから三年目にして初めて露結さんとお話しする機会を得たのですが、ブルースと俳句って、定型と自由の在り方が似てるよね、とか、コード進行があってアドリブで演奏するのと、型に語彙を流し込む俳句自動生成ロボットって似ているよね、とか、白昼からお酒を飲みつつそんな話を致しました。二十世紀のポピュラー音楽は、たった十二小節のブルースを雛形にした複製に過ぎない、といったのはどなたであったか。


3. リフレイン

さて、人間としての露結さんの話に戻ります。人間としての露結さんは、虚像・複写・多数への嗜好に関係あるのかないのか、リフレインの技巧を駆使した句をものにしています。

「昼の灯の夜の灯となる桃の花」「遅き日の亀をはみだす亀の首」「春光や鴎の中をゆくかもめ」「ひまはりの葉に向日葵の影を置く」「月の裏も月母の背(そびら)も母」「掛けてある妻のコートや妻のごとし」「吐くときも吸ふときも息冬の蝶」。ことに次のような、語の一部をリフレインする句には独特の陰影を感じます。「裏町に裏のにほひのして遅日」「水に棲むものに水圧養花天」「人類にして類想のあたたかし」「星宿や西瓜は種を宿しつつ」


4. 虚子そして虚

ところで露結さんの句にはいかにも「銀化」的な句もあります。「反故にして反故にしてみな牡丹に似」「空は海をたえず吸ひ上げ稲の花」「たましひが人を着てゐる寒さかな」。こうした鮮やかな見立ての句の反面、もう一方ではある時期に虚子を徹底的に読み込んだであろうことも感じます。「金亀子擲つ虚子の姿かな」「たとふれば竹瓮のごとき我が家かな」「冷し馬人語を以て相通ず」。

直接的なパロディのみならず、先に挙げたようなリフレインの句では、虚子の一部の側面である「茎右往左往菓子器のさくらんぼ」「彼一語吾一語秋深みかも」などのメカニカルで複雑なリズムが身体にしみついている印象を受けます。聞けば「銀化」に入会する前は二年ほどホトトギス系の結社で学んでいた由。むべなるかな、であります。

そうした、師系としてもハイブリッドで、虚像や複写によるたくさんのものが入り混じった多面的な山田露結ワールドを形容して、私はひそかに「ロケティッシュ・ワールド」と呼んでいます。華麗なるロケティッシュ・ワールドの今後の展開を楽しみにしています。

(初出『銀化』2013年3月号)


【週刊俳句のためのつけたり】
山田露結型俳句自動生成ロボット・ロケットくん


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