2013-10-20

林田紀音夫全句集拾読 288 野口 裕


林田紀音夫
全句集拾読
288

野口 裕





上空の花火幼い顔から昏れ

平成四年、未発表句。花火を見ず、人々の顔に向かう視線が意表を突く。一瞬、群衆の顔が浮かび消えてゆく。子供の顔から消えてゆくのは何の寓意か。

 

七月を終る浮標の朱が熟れて

平成四年、未発表句。見慣れている浮標の朱が、ことさらにどぎつく迫る。「七月を終る」とあれば、熟れすぎての腐臭をもそれとなく示していそうだ。次の句は、「八月の身ほとり埃立ちやすく」。七月ほどの句ではない。

 

暮れ際の木槿はひとを黙らせる

平成四年、未発表句。花そのものにひとを黙らせる効果があるととってもよいのだが、韓国の国花である木槿に、植民地時代の朝鮮生まれである紀音夫の幼少時を重ねたと見ることもできる。もっとも、朝鮮に居たのは四歳までだったので、記憶があったかどうか。暮れなずむ中の散策で、木槿を見たとたんに埋もれていた記憶が蘇ったのなら劇的なのだが。

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