2013-10-27

朝の爽波90 小川春休



小川春休




90



さて、今回も第四句集『一筆』の「昭和六十二年」から。今回鑑賞した句は昭和六十二年の春から初夏、四・五月頃かと思われます。昭和六十二年五月には、四月の健康診断に続いて、胃カメラを飲んでいますが、結果は古い潰瘍の痕で一安心。「青」に連載の「枚方から」、四月号はこんな感じでした。
(前略)本当の句作りなるものは決して「頭」とか「心」だけで為し得るものではなくて、五感を総動員して身体全体で作るものなのだから、普段そういう作り方をしていない人、その事自体すらよく飲み込めない人を相手にもの言いしてみても始まらないのである。
 私はよく季題のもつ「手ざわり」「肌ざわり」とか、また「皮膚感覚」で、などと言うが、一句を作るに当たって一つの季題を歳時記的にと言うか、単に色とか形ぐらいの表面的なところでしか把握していない人には、この言葉だって実感としては決して通じてはいないのだと思う。
 だから「手応え」を言う前に、このような身体全体で作るのだということを辛棒づよく説いて、例え僅かでもいいからそういう共通体験を作り上げることに専心すれば、あとは改めて何も言わなくても、各人各様に私の言わんとしているところのものを受け取って貰えるのだと思う。(後略)

(波多野爽波「枚方から・すべては手応え(その二)」)
玩具から電池とび出て蘖ゆる  『一筆』(以下同)

車や電車などの乗り物系の玩具から、シンバルを鳴らしたり喋ったりするぬいぐるみまで、電池を用いる玩具は多い。掲句では結構乱暴な遊び方をされたようで、内蔵する電池が飛び出してしまっている。時候は春、蘖の頃、子供もまた少し逞しくなったような。

屋根替の最後の梯子外されし

春になると、冬の間の雪や強風で傷んだ茅葺や藁葺の屋根の葺き替えを行う。掲句では、その中の最後の梯子が外される瞬間が描かれているが、読み手の想像はその梯子の本数から、葺き替えられる屋根の大きさへと及んでゆく。空間的、時間的奥行を備えた句だ。

桜しべ潜る着物の奥へ奥へ

自宅ではほとんど着物を着てくつろいだという爽波。掲句は女性の着物と読むと少し着方がゆる過ぎる感じがするので、男性の着物と読みたい。桜の花が散った後、赤い蘂が散り落ちる。それが、少しゆるく着こなした着物の奥へと滑り込むのだ。色彩も印象的な句。

新茶の荷急ぎ届くよ字が撥ねて

その年の新芽で製した茶の中でも、最も早い芽で作ったものを一番茶と呼ぶ。掲句の荷も恐らく一番茶、「急ぎ届く」とはなかなかに含みのある言い方だが、予想した日より早く届いたか、いかにも急いだ様子の梱包だったか。字の撥ねぶりからも活気が伝わる。

竹皮を脱ぐ鳥唄ひ獣寝(い)

伸びるにつれて、下の方の節から順に皮を脱いでいく筍。一日一日、季節の進む速さを感じさせてくれる景だ。周囲の竹林からは盛んに鳥の鳴き声が届く。獣の眠る姿は直接見えたか、それとも獣の気配を感じたのか。野生の動物・植物のエネルギーに満ちた句。


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