2013-11-17

【週俳10月の俳句を読む】妄想スイッチ 柴田千晶

【週俳10月の俳句を読む】
妄想スイッチ

柴田千晶


ともだちが帰つてこない冷蔵庫  西原天気「灰から灰へ」

物流倉庫の低温庫の中でチョコレートの検品作業をしたことがある。低温庫なので凍え死ぬことはないと思うが、扉が閉まるときはいつもちょっと不安になる。冷蔵庫といえば死体、という妄想スイッチが入ってしまう。

「ともだちが帰つてこない」と「冷蔵庫」の取り合わせは怖い。一緒に遊んでいたともだちがいつの間にか姿を消している。黙って家に帰ってしまったのかもしれない。そういうことはよくあることだ。

でも「冷蔵庫」が頭の中に浮かんでしまう。とり残された子どもは、ともだちの死を一瞬思い浮かべたのかもしれない。ともだちはきっと空き地に捨てられた冷蔵庫に入ったまま出られなくなってしまったのだ、という妄想に取り憑かれてしまう。子どもは冷蔵庫に死を見たのだ。

だが、この句の「ともだち」が子どもであるとは限らない。大人もある日ふと日常から姿を消してしまうことがある。冷蔵庫のようなものの中に入ったまま出られなくなってしまうことがあるのだ。満員の通勤電車のレールが、枯野に不法投棄された巨大な冷蔵庫に繋がっていることもあるかもしれない。そんなことまで妄想させてくれる一句。


雁の鳴くゆふぐれならば輪の浮かぶ  生駒大祐「あかるき」

「輪」ってなんだろう。水面に浮かぶ輪のことかな、と思いつつ、輪といえば首吊りの輪、という妄想スイッチが入ってしまう。

雁の鳴くゆうぐれにぼんやり浮かぶ一つの輪っか、死んだら楽になれますよ、とでも言いたげな。別に死にたいわけじゃないけど。

だが、死が日常のすぐ隣にあることを、ふと意識する瞬間というものが人にはあるのではないか。そんな瞬間にふと心に浮かんでくる「輪」なのかもしれない。


舎利成型器稼動永遠天の川  村越 敦「秋の象」

人がこの世から消えてしまった後にも、すしロボットは永遠にすし玉を作り続ける。真っ白いご飯にも死のイメージがある。人が亡くなったときに枕元に供えるご飯を思い浮かべてしまうからか。舎利という言葉から骨を連想してしまうからか。

天の川という遙かなところから、舎利成型器が永遠に作り続けるすし玉を見つめている人がいる。その人は何を思っているのか。面白い素材の句。


埋もれてしづかな機械暮の秋  鈴木牛後「露に置く」

この句も好きだけれど「冷蔵庫」や「舎利成型器」と比べてしまうと「機械」が一般的で弱いように思う。

秋霖や赤く肉屋のショーケース  鈴木牛後「露に置く」

秋霖に赤く灯る肉屋のショーケースがいい。店の奥の暗がりには大きな冷蔵庫がある。なんて、それ以上の妄想はしないでおこうと思う。


私が心ひかれてしまう作品は、一句の遙か彼方に「死」というものが見えている句のようだ。作者の意図とは違う読み方をしてしまったかもしれないが、これらの句の遙か彼方にも明るい死の川が流れているように思う。


第337号 2013年10月6日
高橋修宏 金環蝕 10句 ≫読む
第338号 2013年10月13日
西原天気 灰から灰へ 10句 ≫読む
上田信治 SD 8句 ≫読む
第339号 2013年10月20日
山口優夢 戸をたたく 10句 ≫読む
生駒大祐 あかるき 10句 ≫読む
村越 敦 秋の象 10句 ≫読む
第340号 2013年10月27日
鈴木牛後 露に置く 10句 ≫読む
荒川倉庫 豚の秋 10句 ≫読む
髙勢祥子 秋 声 10句 ≫読む


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