2013-12-15

林田紀音夫全句集拾読 295 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
295

野口 裕





夜に溶けてさくらが海の音を聞く

さくらまた散る寝たきりの夜と昼

花残るさくら幽明いずれとも

葉桜に取り残されて日暮れのわれ

葉桜を離れて午後の日に当たる


平成五年、未発表句。前年にあった大量のさくらの句が三句、葉桜を含めても五句と激減している。理由は二句目に書いたような事情があったのだろう。とすると、一句目は寝つけないまま床にある作者が凝視した夜闇の姿になる。さくらに託されているものは小さくはない。

 

追ってくる病葉通夜の戻り道

平成五年、未発表句。「悼 堀葦男さん」の詞書あり。次は自分の番という予感に突き動かされているような句。紀音夫は、第二句集『幻燈』の閲を彼に頼んだ。感慨もまた一入であっただろう。

 

踏をわたる日傘を傾けて

平成五年、未発表句。「踏」だけでは、「とう」としか読みようがないので、「石」あるいは「跡」の一字が抜け落ちていると思われる。淡い影の落ちる地面を見つめるしかない、限定された視界の有り様が様々な連想を生む。

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