2013-12-01

朝の爽波94 小川春休



小川春休




94



さて、今回も第四句集『一筆』の「昭和六十二年」から。今回鑑賞した句は昭和六十二年の初秋、九月に入るか入らないかという時期かと思われます。ただ、前回鑑賞した句に〈この瀧に水戻りたる子規忌かな〉がありまして、子規忌は九月十七日、五山の送り火は八月十六日、必ずしも時系列で並んでいる訳ではないようです。

捕虫網その他何でもある教会  『一筆』(以下同)

倉庫か勝手口でもあろうか、様々な物がまとめて置かれている中に、一本抜きん出て高いのが捕虫網。教会に馴染みのない者には想像しにくい面もあるが、教会もまた牧師などが家族で暮らす生活の場。元気な子供のいる家庭としての側面がありありと窺われる句。

朝顔や良き句に大き二重丸

掲句、丸を付ける側とも貰う側とも読めるが、作中主体を爽波その人と読めば、自然と丸を付ける側の姿が見えてくる。朝の日差しに朝顔が鮮やかな朝の内から選句に取り組む。弟子の苦心を知っていればこそ、「でかした」という思いで大きな二重丸を付けるのだ。

五山の火燃ゆるグランドピアノかな

八月十六日の夜、京都東山如意ヶ嶽の「大文字」の他、「左大文字」「妙法」「船形」「鳥居形」が相前後して点火される五山送り火。五山の火が見えていれば、たっぷりと広い夜空も見え、グランドピアノの艶やかな黒との質感の差異も鮮やかに感じられる。

尚毅居る裕明も居る大文字

爽波の弟子・岸本尚毅と田中裕明。裕明は関西の人だが、尚毅は関東。その三人が揃って大文字を見るのは、珍しいことだったのではないか。俳句に打ち込み、門人の育成に力を注いだ爽波にとって、尚毅・裕明という有望な若手の存在はこの上ない喜びであったろう。

もろこしを抛るつぎつぎ受止める

もいだとうもろこしを放り、もう一方で次々受け止める。矢継ぎ早の連携プレイだ。とうもろこしの収穫適期は三日程度と短く、収穫の日は朝早くから一気呵成に収穫する。留まることなくスピーディに進む収穫作業を、二つの動詞の連携によって描写している。

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