2014-01-12

【週俳12月の俳句を読む】何も聞こえなくなったあと 陽美保子

【週俳12月の俳句を読む】
何も聞こえなくなったあと
 

陽 美保子


杭ひとつ打ち了りたる冬の島  石 寒太

きわめて単純なひとつの事に焦点を当て、そこから季節感を表出し、読者に余情を感じ取ってもらう手法は、俳句のもっとも基本的な、そして俳句がもっとも得意とする手法であろう。

何の杭であるかは問題ではない。一本の杭を打つ音が響いていた。それだけでも満目蕭条とした冬景色の中、寒々とした趣があるが、その音が止んで何も聞こえなくなったあと、波音だけが聞こえているのは、一層わびしく、冬の寒さが心の中にまで染み込んでくるようだ。


あの家は今生きてます干布団
  高崎義邦

布団が干してある家を見ると、まだ育ちざかりの子供がいる家族が住んでいて、多少雑然としていても活気がある、そんな一家を想像する。マンションでは通常、布団を干すのは禁止。ひとり暮しの家でも、布団が干してあるのはあまり見かけない。干布団は、本来の「家」の持つぬくもりを象徴しているかのようだ。「家」は、建物を表すだけでなく、家庭や家族といったその中に入る人々をも表している。「あの家は今生きてます」のフレーズで、テレビで流れる漫画のサザエさんの家、一家が家に入って、家がぼこぼこと動くあの家を想像したのは私だけではないであろう。


海原は覇者のしづけさ寒夕焼
  奥坂まや

自然に親しむという言葉は、勝手な人間側の言葉であることを思い知らされたのは、3.11の大震災と津波。いつも穏やかな海、心を癒してくれる海が、突如牙をむいて大暴れをし、多くの人の命を奪った。その後、以前と同じように平穏な海に戻っても、自然の脅威を知ってしまった私達は、もはや、以前と同じような気持ちで海を見ることはできない。「覇者」という言葉が浮かんだのも、作者の心の中にそのような思いがあったからではないだろうか。眼前の海も寒夕焼も恐ろしいまでに美しい。


第345号 2013年12月1日
石 寒太 アンパンマン家族 10句 ≫読む
高崎義邦 冬 10句 ≫読む

第346号 2013年12月8日
五島高資 シリウス 10句 ≫読む

第347号 2013年12月15日
柿本多映 尿せむ 10句 ≫読む
小津夜景 ほんのささやかな喪失を旅するディスクール 20句 ≫読む

第348号 2013年12月22日
奥坂まや 海 原 10句 ≫読む

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