2014-01-19

林田紀音夫全句集拾読 299 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
299

野口 裕




さくら降る錻刀を叩く音つづき

平成六年、未発表句。この年はさくらの句は葉桜の二句を入れても八句。やはり入院もあって少ない。上揚句は、錻力かと思ったが、錻刀。これもまたブリキと読むようだ。いらいらするような音の続く中を散り急ぐさくらの景は、そのまま紀音夫の体調・心境とつながる。

 

打水のところどころに男女立つ

平成六年、未発表句。男女の間に関係はないのだろうが、書かれてしまうと関係があるように読めてしまう。作者も読者も嘘と分かって楽しむ。打水だから、それほど熱した関係にはおちいらないはずだ。

 

年終る朝から夜へ海荒れて

平成六年、未発表句。平成六年は句数が三十五句、一頁余と少ない。前掲句から秋を飛ばしたことになるが、特に取り上げる句もなさそうだ。やはり、入院が響いていると思われる。上掲句がこの年の最後の句。そして、平成七年初頭に阪神明石淡路を襲った地震に遭遇することになる。

 

数条の水となり道遠くなる

平成七年、未発表句。前年よりもさらに少なく二十六句。病苦に地震の追い打ちが堪えているのだろう。上掲句は、この年の冒頭の句であり、まだ地震は起こっていない。

上五はいろいろな情景が想像できるが、何らかの堰を超え始めた幾本かの水の流れが道の遠さを強調しているように見える。当然、水は我が身、道は行方分からぬ未来を秘めているはずだ。この年の年頭の所感ととらえると、予見めいたものを感じる。

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