2014-01-12

SUGAR&SALT 08  もむ紫蘇の色香に揉まれ男われ  三橋敏雄 佐藤文香

SUGAR&SALT 08 
もむ紫蘇の色香に揉まれ男われ 三橋敏雄

佐藤文香

「里」2010年11月号より転載


句集『巡禮』は、全集で読むとわずか7ページ、作品数は50句である。

高橋龍氏の「句集解題」によれば「自ら間奏句集と名付ける小句集」。1ページ1句組、限定250部の私家版。永田耕衣『肉体』・加藤郁乎『秋の暮』と同じA6版の句集らしい。

今もし古本屋にあったらいくらくらいするだろうか、などと考えてしまった。よく古本屋に行く人に「敏雄句集あったら少々高くても買っといて」と言ってあるが、まだ見ないという。句集を謹呈された人や購入した人が、大事にしていてくれるのだろうと思うと嬉しい。

さて、50句しかないにも関わらず、この句集、触覚を刺激する句が多い。高橋龍氏は「この句集でいよいよ顕著にされるのは、エロチシズムという名の時間の消去法ではあるまいか」と述べており(「時間の消去法」あたりがいまいちつかめないが)、エロチシズムは納得。

言葉の表面ではなく、リアルを思い描いて“感じる”類のエロだ。しかも、作家が三橋敏雄だとわかって読むからなおエロい(「エロい」は褒め言葉です)。

皺伸ばすV字の指の合間かな  三橋敏雄

私もピースをしてみると「V字の指の合間」が生まれた、この指と指の間、河童なら水かきのある部分の皺が伸びるかと凝視してみる、手の甲側の指の皮膚に比べて色白なこの部分は伸ばせば少し赤らみ触れば感じる。

敏雄が「やってごらん」と女の子にやらせて、ほら皺が伸びるだろ、と触ったりするのまで妄想してしまった。

純粋にロマンチックな〈一日の日負けのひふを抱きあふ〉〈秋いかに砂の渚を踏みのぼる〉などもある中で、「皺伸ばす」の句に断然“感じた”。

そら豆の尻かあたまか口あそび  三橋敏雄

そら豆のつるっとした形状に、中七下五のリズムは阿波踊りのようで愉快、豆・尻・口という簡単な漢字しか使われていないのも明るくてよい。

そしてこの句に描かれている唇や口内の舌の動きを思い浮かべてやってみるか、やっている人(たとえば敏雄さん)を想像してほしい。そら豆の曲線が、それを弄ぶ口が、面白くてエロくてよい(ちなみに同じ平仮名で「あたま」を書いた句に〈晩涼のあたまの微光わが発す〉がある)。

ただ、エロティックだったり肉体的であったりすることは、敏雄の一部でこそあれ、本質とは言えないだろう。この50句、“感じて”という敏雄からのファンサービスの限定版ではなかろうか。

「俳句」(角川書店)昭和53年9月号所収の50句のうち1句を差し替えただけという、雑誌初出の連作のクオリティの高さにも脱帽である。

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