2014-02-09

【週俳1月の俳句を読む】雪、白い。 手銭誠

雪、白い。

手銭 誠


雪が好きである。

沢山降ると雪掻きが大変だし、まず冷たい。でも何故だか好きなのである。
それはたぶん、雪が白いからだと、最近気付いた。

白の語源は、「著し(しるし)」。「きわだっている」「はっきりしている」「いちじるしい」などの意味である。白は、色というよりもむしろ色のぬけた状態の「からっぽ」の色であり、かつ鮮明にきわだった状態の色でもある。

雪が降った朝は、街がすべて、白になる。昨日までの風景が、からっぽになる。

 日本美術には「余白の美」という言葉もある。日本人は白の持つ「からっぽ」な感じを心のどこかで愛し続けているのかもしれない…。この風景を同じように見ていた先人たちが、やまと絵や和歌や茶の湯や能を作り出してきたのではないか…。

白一色の景色を眺めていると、そんな思いが頭の中をぐるぐるとまわり始めるのである。

さて、真っ白な雪野原にはじめて踏み入るように、俳句を確かめてゆく。

冬深しコーヒー豆の黒き溝  小野あらた

寒い冬の朝、コーヒーを淹れようと、ミルにコーヒー豆をからからと注いだ。
作者はそのとき、豆の一粒ずつに、「黒き溝」が刻まれているのを発見したのである。
上五の「冬深し」という季語が、その溝の深さにまで影響を与えている。「黒き溝」とは、あるいは作者の心の深淵の表出ではないか。

涸川の合流をする形かな  小野あらた

普通、合流する川を詠おうとする場合、その水のボリュームに目が向きそうであるが、それとは対極的に、細々とした涸川の合流を見つめながら、川の形状に目を向けたところが独特な視点である。ちょっとした目線の外し方が、俳諧的でもある。
穏やかな場面を平易に表現した句ではあるが、挑戦的かつ魅力的な句に仕上がっている。

除夜快楽なりぱみゅぱみゅも肉球も  佐怒賀正美

大晦日の夜である。年越し蕎麦を食した後、お酒でも飲みながら年末恒例の歌番組を見ている。作者は猫を抱いていて、無毛の肉球の盛り上がりを触っている。目の前には、きゃりーぱみゅぱみゅが登場し、カワイイとグロテスクを交差させながら歌っている。

誰しもが経験したことのある「除夜」の不思議な時間の流れを、可愛くもありながら不安定な響きを持った「ぱみゅぱみゅ」という言葉と、猫の「肉球」の感触を以て装飾している。そして、それらの言葉すべてが「快楽なり」という断定によって、しっかりと連結されている。

四回転以上して飛ぶ鬼打つ豆  佐怒賀正美

一般的に「四回転」という言葉は、例えばフィギュアスケートのようなスポーツでしか聞かない言葉である。スロー映像などで見ない限り、素人には何回転しているのか全くわからない。

掲句は、鬼に向かって飛んでいく豆が「四回転以上」していると言った。あたかもアクション映画のワンシーンのように、スローモーションでその瞬間を切り取っているかのようである。豆を投げる者も、襲いかかる鬼も、すべてがスローモーションである。

ピストルの弾のように錐揉み式に鬼に向かって飛んでゆく豆は、その映像の中心に位置し、渾身の力を持って回転している。

「四回転以上」という言葉を使って、スローモーションの映像であるかのように印象づけたことにより、ひとつの画面の中に「豆」と「鬼」と「豆を投げる者」すべてを躍動的に描きだしている。


第350号2014年1月5日
新年詠 2014  ≫読む

第352号2014年1月19日
佐怒賀正美 去年今年 10句 ≫読む
川名将義 一枚の氷 10句 ≫読む
小野あらた 戸袋 10句 ≫読む

第353号2014年1月26日
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