2014-03-16

【週俳2月の俳句を読む】それはかつて白き翼を 安藤由起

【週俳2月の俳句を読む】
それはかつて白き翼を

安藤由起


クレソンを咥えてすこし非日常  原 知子

昨今、世界各国からさまざまな野菜が入ってくるようになった。以前フレンチ店でバーニャカウダを頼んだ際、6~7種類の野菜が供されたが、いまやおなじみになったアイスプラント以外は見たことも聞いたこともない野菜ばかりだった。このグローバル化、情報化の時代にあって知らない野菜がこれほどあるとは!――とたまげた。世界は広い。

クレソンは外来野菜の中でも割と古株のように思う。しかし、わが家の食卓には登場しない。戦前生まれの母もおそらく一度も料理したことがないに違いない。外来ものに限らず、なじみがない食材は手に取りにくい。地元北海道のスーパーで、空豆やくわいがあまり売られていないのも同じ理由だ(あんなにおいしいのに)。そんなわけで、クレソンはもっぱら外で食べる。それもちょっときどった店で。掲句は、その非日常の空間を端的に表していると感じた。咥えて、がいい。

クレソンの別名はオランダガラシ。少し辛味があるというが、何度も食べているはずなのに、どんな味かいまいち思い出せない。カイワレ大根みたいな感じだっただろうか。このごろは山梨県を中心に国内での生産も増えたらしい。3~5月が最も色あざやかで柔らかく、それ以降は茎が硬くなる。いまが旬。今度、売っているのを見つけたら試してみたい。


ペリットの白き羽毛や春の風  広渡敬雄

ペリットという言葉を初めて知った。鳥が口から吐き出す固まりのことを指すそうだ。多くの場合、エサとして食べた昆虫の外骨格、植物の繊維、動物の毛、骨、くちばし、爪、歯などだという。作者は「梟の吐瀉物」と注釈をつけている。北海道の先住民、アイヌ民族の間では神とされたフクロウが、何かを食べ、そして吐いた。それはかつて白き翼をもつ何者かであった。風に揺れる羽毛だけがそれを証明している。自然の連鎖の一端を見るという意味では、動物の糞にも同じことが言えるのかもしれないが、趣が違う。まだつめたい春の風と同じ厳しさを、まざまざと感じる。


第354号 2014年2月2日
内藤独楽 混 沌 10句 ≫読む
第355号2014年2月9日
原 知子 お三時 10句 ≫読む
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第356号 2014年2月16日
瀬戸正洋
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第357号 2014年2月23日
広渡敬雄 ペリット 10句 ≫読む
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