2014-03-30

林田紀音夫全句集拾読 309 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
309

野口 裕






市民課の壁の矢印増えて行く

平成八年、未発表句。発表句では平成八年「花曜」に、「市民課へ矢印電話途中で切れ」。矢印は、地震後の行方不明者の消息や避難場所を示すものかと想像する。震災関連句に挟まれているために、これもそうだと推定は出来るが、単独に取り出すと、市民生活を管理する役所という風な別の解釈も可能となる。

知人の消息を確かめるために役所に出かけたが、問い合わせる人でごった返していて何がどうなっているのかさっぱり要領がつかめない。とにかく避難者の消息を示す掲示をていねいに調べるしかない。大阪に転居した人はあちら、和歌山はこちら、まだ避難所にいる人は向こうの壁、という風に。壁に貼ってある矢印にしたがって、あちこちを読んでみたが途方に暮れそうになる。矢印が悪意の塊に見えてくる。以上、当方の想像を書いてみたが、もちろん想像でしかない。

 

解体家屋の未練とりどり土埃

家つくる音していまは釘打つ音


平成八年、未発表句。震災関連句の最後の二句。発表句では、「解体家屋の悲喜とりどりの土埃」、「家を組む木の音いまは釘打つ音」(平成八年「花曜」)となっている。一句目は、「悲喜」よりは「未練」の方が良いだろう。「悲」はともかく、「喜」が想像しにくい。二句目は、発表句よりも簡単な構造にすることにより、槌音を効果的に演出する。

いずれにしろ、これで彼の震災に関する発言は終了する。平成八年の未発表句も、残り三句となる。

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