2014-04-13

【週俳3月の俳句を読む】出口の先には 大和田アルミ

【週俳3月の俳句を読む】
出口の先には

大和田アルミ


「倒れてはる」て、鉢の椿に敬語やなぁ   白井健介

昨今は他人の事など顧みず自分の事で一生懸命という余裕のない時代だが、このゆったりとした景は、暖かく懐かしい。倒れている椿の鉢を、この人は起こしてやったのだろうか。そしてそれを見ている作者も、なんだかほっこりしたのだろうか。私の住む東京は、椿の鉢はおろか、人が倒れていても素通りするような、そんな街なのがちょっと淋しい。


陣痛は大気圏突入のやうだ春   山口優夢

私は出産の経験がなく、もはやその予定も皆無だ。ましてや大気圏突入も経験がないが、この二つに共通点を見出したところが面白い。映画 の世界の大気圏突入は、あれやこれや準備万端整えて、さぁこれから「突入ー!」。乗組員はみなぐっと押し黙り踏ん張って耐えている表情だ。大気圏内に入れば、無事を喜び合う。無機質な空間から一気に生に満ち溢れている空間へ。なるほど、大気圏突入の踏ん張り感は陣痛のようなのか。


母の息思はぬ近さ石鹸玉   山崎祐子

息がかかる程の近さに人が触れ合う最初は、大抵の場合母親だろう。当たり前のように母親を近くに感じながら子供は成長していき、やがては離れていく。作者は当たり前の母の息の近さを、ある時当たり前でなく感じたのだろうか。であれば、親離れの瞬間、母親を一人の人間として意識した瞬間なのかもしれない 。または、長じて後、年老いた母親を介護して母に顔を近づけたその時、子供の頃の「当たり前」だった記憶が蘇った瞬間なのか。


泥鰌鍋以前と以後のある男女   関根かな

以前よくいった居酒屋の常連客に、決して若くはないカップルがいた。男はチョビ髭もどきを生やしジャケットを着てそれなりにきちんとしている。女は少し化粧が厚く髪はソバージュで派手めな服なのだがデザインがひと時代前。仲間内で「昭和カップル」と勝手に名前を付けていた。この句を読んで、そのカップルを思い出した。過去にいろいろある者同士が泥鰌鍋をつつきながら語らっている。燻し銀みたいな二人。


全町非難玄関の貼り紙冴え返る   風間博明

津波で家を流され、すっかり何もかもなくなってしまう事も辛いであろうが、目の前に存在するのにそこに居る事が許されないというのも、なんと切ないことか。その気持ちが冴え返るといった事で、より強く感じられる。


亀鳴くやこのごろ買はぬ角砂糖   大川ゆかり

我が家は辛党で、来客があってもお茶を出すよりビールを出してしまうような家だ。そういえば角砂糖を買っていないなぁ。というか、頂きものの角砂糖が何年も台所に眠っている。角砂糖という澄ましたものを常備しておかなくなった日常を、それはそれで良しと笑っている、そんな作者が見えた。

さへずりや箱で売らるる天然水

この句を読んで、何故だか水笛を思い出した。竹製の笛をコップ等に入れた水に突っ込んで吹くと、小鳥が囀るような音がするもので、玩具であったり、芝居で擬音として使われたりする。鳥の声のコロコロした感じがするのだが、あくまでも擬音なのだ。箱で店頭に並べられる天然水はキラキラしていて綺麗だけれども、どこか嘘くさい感じもする。


ものの芽の二人の話聞いてをり   小澤麻結

芽吹きの季節は、昂揚感がある。ぐんぐんと伸びている芽は「私を見て」と言っているようにも見える。けれど、この二人の会話はのっびきならない様子だ。ものの芽が「おいおい、能天気に伸びてる場合じゃないぞ」と、はたと聞き耳をたてている。そんな感じの句だ。


梅二輪せなかあはせにほころべる   藤永貴之

草原等で、人同士が背向かいになって足を投げ出したり膝を抱えたりして座り、その状態で語らったり本を読んだり、時には押し合いっこをしてふざけたり。そんな光景を最近は演劇の中くらいでしか見なくなったような気がする。仲のいい二人が、お互いの体温を背中に感じながら、あんな事やこんな事を話している。他愛もない事かもしれないけれど、何だかとってもいい時間を過ごしているのだ。そんな景が浮かんだ。


甘噛のさせ放題や春炬燵   齋藤朝比古

犬を飼っているが、犬という奴は、特に幼いうちは、とにかく構って欲しくてやたらと甘噛みをする。それを「させ放題」にしているという。痛い、痛いと言いながらも、そのままなのだ。遊んでいるのか、遊ばれているのか。そんな作者のゆとり感が微笑ましい。ただ我が家の場合、あまりさせ放題でじゃれさせておくとエキサイトして本気噛みになり、春炬燵で飛び起きる羽目になったりする。

春昼の部屋に鈍器の二つ三つ

部屋に鈍器と思しきものが二つ三つ置かれている。二つ三つのうちの一つが、もしかしたら自分自身かもしれない、と作者が感じたのか。自らを持て余す。春昼のアンニュイな時空間に落ちていってしまいそうだ。


流星になる真夜中の逆上がり   藤田めぐみ

私の住む井の頭の公園では、時折真夜中に鉄棒に挑んでいる若者を見かける。何か夜中に居ても立ってもいられなくなる衝動というものは有るものだ。そんな時に勢いよく逆上がりをしてみる。天と地が逆さまになるのだが、夜だからどちらも暗い。そうやってぐるぐる連続で逆上がりで回って、天も地ももはや一緒に感じられた時、流星のエネルギーが宿るのかもしれない。


出口より見ゆる風船売場かな   堀下 翔

この出口はどこだろう。カラフルな風船を売っているのが入口でなくて出口なのだ。でも出口と入口は紙一重。出口の先には新しい入口が待っていて、誘うように風船がゆらゆらしている。何か新しい期待感が高まる。もっと素直にとらえれば、ちょっと懐かしい光景でもある。

掻き毟る頭のやうな桜かな


桜の大木が満開になる様子は、感嘆や歓喜とは違う、「んがぁーー」と叫びたくなるような気持ちを想像する事がある。そうか、掻き毟る頭のような感じだったのか。狂気とも思える感情を呼び起こす、時に桜はそんな力を持っていると感じる人は少なくない筈だ。


第358号2014年3月2日
白井健介 乾燥剤 10句 ≫読む
山口優夢 春を呼ぶ 50句 ≫読む
第359号2014年3月9日
山崎祐子 海鳥 10句 ≫読む
関根かな 雪兎 10句 ≫読む
風間博明 福島に希望の光を 10句 ≫読む
第360号2014年3月16日
大川ゆかり はるまつり 10句 ≫読む
小澤麻結 春の音 10句 ≫読む
藤永貴之 梅 10句 ≫読む
第361号2014年3月23日
齋藤朝比古 鈍器 10句 ≫読む
第362号2014年3月30日
藤田めぐみ 春のすごろく 10句 ≫読む
堀下 翔 転居届 10句 ≫読む

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