2014-07-13

【週俳6月の俳句を読む】クールダウン 栗山 心

【週俳6月の俳句を読む】
クールダウン

栗山 心


「一句一句頭に浮かぶ景色が違うから、脳がリフレッシュする」「一分位、異次元に行ったよ」

最近、他人に対する怒りをぶつけたメールを、頻繁に送ってくる友人。付き合いきれないな、という思いもあり、黙っていくつかの俳句を送ってみた。その感想がこれである。いきなり送りつけられた俳句を読んでいるうちに、怒りも治まってきたらしい。全く俳句を知らない人は、たとえば展覧会で絵を見るように俳句を読むと、気付かされた。

俳句を読むことに、鎮静効果があるなら、俳句を作ることにも、同じ効果があるのではないか。激しい怒りが俳句を作る原動力であっても、出来あがったものは、美しさを詠っていることもある。


水打つや影煮えたぎる人として  高坂明良

「煮えたぎる」という、激しい言葉。体から溢れ出るほどの思いを誰かにぶつける、ということはなかなか出来るものではない。様々な思いを閉じ込めて、大人は黙って地面に水を打って時をやり過ごすのだ。


スリッパの滑りやすしよ昭和の日  陽 美保子

あまり流行っていない歯医者などの、湿り気のあるビニールのスリッパは不衛生だし、滑りやすいし、どうも苦手だなぁと思っていたら、最近、土足で入れるところも増えている。かつては、舗装されていない道も多く、靴が汚れていて、スリッパは必須だったのだろう。
昭和の頃からすると、スリッパに役割も変わってきているのかも。脱力した感じが、いかにも昭和の日、なんとも味わい深い句である。


風神雷神呼びたくて春の山を売った  西村遼   
浸水のびん工場のびん船出

ここから何か物語が始まりそうな、不思議な句。時にはこの位の大嘘を詠んでみたいし読んでみたい。二句目など、椎名誠さんのディストピア小説『武装島田倉庫』の世界に飛ばされたかのようだ。まさに冒頭の友人の「異次元に行った」という言葉通り、俳句を読むというのは、短い旅であり、すっかりとクールダウンして、読者は落ち着いた日常に戻ることが出来る。


第371号 2014年6月1日
陽 美保子 祝日 10句 ≫読む
第372号 2014年6月8日
髙坂明良 六月ノ雨 10句 ≫読む
原田浩佑 お手本 10句 ≫読む
 第373号 2014年6月15日
井上雪子 六月の日陰 10句 ≫読む
第374号 2014年6月22日
梅津志保 夏岬 10句 ≫読む
第375号 2014年6月29日
西村 遼 春の山 10句 ≫読む

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