2014-07-13

【週俳6月の俳句を読む】続・週俳6月作品をアナグラムにして読む  山田 航

【週俳6月の俳句を読む】
続・週俳6月作品をアナグラムにして読む

山田 航



どうもこんにちは。山田航です。今回も引き続き週刊俳句6月掲載作品をアナグラムにして解析してゆきたいと思います。まずは井上雪子さんのこの句から。

満月に泣くほどのこと初メロン  井上雪子『六月の日陰』

アナグラムにすると「本土にはこんな睫毛と黒の爪」なんてどうでしょうか。本土に上陸して初めて出会った付け睫毛と黒いネイルに驚いているとでも解釈しましょう。本土ってどこだよって感じですが。元の句は満月とメロンの丸い形の類似がポイントになっているのですが、アナグラムも一応睫毛と爪でなんとなく尖った体の一部という共通性が(かなり無理矢理ですが)あります。

「満月」「泣く」「初」とa音で頭韻を踏んでいることが開放的な響きになり、「丸」という形状のイメージにもつながるふくらみを感じさせてくれます。そこを活かすために、アナグラムでも「本土」と「こんな」でo音を揃えてみましたが、別に何らかの効果はなかったようです。

景品の種から発芽して5月  梅津志保『夏岬』

続いて、梅津志保さんの作品。アナグラムだと「手の平が5年は怪我かつついたし」なんてところでしょうか。不用意につついたところ手の平に全治5年の怪我を負ったという意味だととってください。どれだけ虚弱体質なんでしょうか。元の句にも入っている5という数字をできればそのまま使いたくはなかったんですが、より意味が通りやすいかたちをとってしまいました。「看護師はつついた手の平が怪我ね」という案もあったんですが、語順がよくわからないのでボツです。つついた犯人が看護師だったように読めてしまいます。別にそれでもいいんですが。

梅津さんの元の句は、前半でわざと押韻を避けて散文調にして、テンションの低い淡々とした雰囲気を出そうとしています。そうして「発芽して5月」の押韻へとパワーを溜めているのです。なのでアナグラムでは、結局ひとつも押韻しないまま終わるかたちにしてみたのです。それでも完全なローテンション散文体には決してならないのは、唐突な倒置形のおかげでしょうか。

楼蘭國蜃気楼庁喫煙室  西村遼『春の山』

続いてこの句。この方の俳句は言葉遊び的な要素が多くてとても面白いですね。この句もとにかく響きの面白さを優先していて、深い意味を持っていないところが素敵です。

アナグラムにするなら「知らん通路消えろ通勤こんちくしょう」。これはもう「こんちくしょう」を掘り出せた時点で勝ちですね。きっと朝の通勤途中に、新宿駅あたりの迷宮に迷いこんでしまったのです。知らない通路がどんどん現れて自分がどこにいるのかもわからなくなって、いつのまにか通勤そのものへの憎悪へと向かっていく。まるで迷路の壁のように硬質なK音とR音の響きも、言葉の迷宮化に一役買っています。そもそもオリジナルの句からして「楼蘭」「蜃気楼」「喫煙」と煙に巻いて巻きまくって幻の世界へといざなっているわけですからね。アナグラムにしてもやっぱり幻の世界に迷い込むわけです。言葉遊びは幻のイメージと遊ぶということでもあるのです。あなたもウサギを追いかける少女のように、この不思議なアナグラム俳句の世界に続く穴へと、飛び込んでみるのはいかがでしょうか。


第371号 2014年6月1日
陽 美保子 祝日 10句 ≫読む
第372号 2014年6月8日
髙坂明良 六月ノ雨 10句 ≫読む
原田浩佑 お手本 10句 ≫読む
 第373号 2014年6月15日
井上雪子 六月の日陰 10句 ≫読む
第374号 2014年6月22日
梅津志保 夏岬 10句 ≫読む
第375号 2014年6月29日
西村 遼 春の山 10句 ≫読む

0 コメント: