2014-11-02

落選展2014_19 仮面 中村清潔 _テキスト

19 仮面 中村清潔

洞窟の画は初夢に狩りしもの
潜水艦浮上初凪待たずして
初明り烏帽子海鼠を照らしけり
食虫植物睡りゐる淑気かな
仙人掌に一番水を遣りにけり
弾丸とすれ違ひしか春疾風
ホルマリン漬のいろいろ涅槃雪
落下音幽かなる辺の椿かな
地下広場にて初蝶の話など
目醒めよと呼ぶ声ありし蝶の昼
海市なき海をみてゐる海馬かな
知恵熱の頃なつかしや鳥帰る
龍天に登ることなき帝都かな
復活祭明けたるまちの鳥瞰図
明日こそは二足歩行を青き踏む
草を食み草に夢みて聖五月
種のなき実を口うつし桜桃忌
純白の帆をかなしめり皐月波
鵺の眼のなかにあるべし青山河
蛍籠吊るしてわれら木の国に
塩壺に一塊ありし半夏生  
なめくぢら塩撒く民にふりむかず
乙女座に爆発ありや巴里祭
仮面舞踏会(マスカレード)ひとり裸を赦されて
蚊喰鳥ひるまの月をほめながら
蟻一匹行方しれずの遺髪とや
蟻地獄この世の果ては明るしと
白亜紀の崖下をいまの片蔭に
みづうみの秋は波打際で待て
天球儀つめたき秋のはじめかな
鷹柱それでも地球まはりけり
大隕石孔のうちなる穴惑ひ
かくまでも霧深し開眼せよと
鬼門ありあらゆる桃に指の痕
少年と美少年あり雁渡し
無重力体験ツアー神の留守
木星に近き山より枯れゆくか
極月の枯山水をわたくしす
十二月八日ひとりの無菌室
祝婚の食べあましたる牝鹿かな
山火事を起源としたるひと皿を
窓といふ窓の氷柱を折る音か
熱燗や移民の歌をききながら
冬銀河明日は長距離走者かな
日当たれば日当たるほどに恵方道
伊予訛り桶を鼓の初湯かな
生命線大河の如し若菜摘む
涅槃絵図よりも小さな庭に出て
国褒めの声北窓をひらきしや
野外劇大団円のころは東風

1 コメント:

四羽 さんのコメント...

目醒めよと呼ぶ声ありし蝶の昼
バッハのカンタータと、胡蝶の夢。夢から現へ引き戻すのは神か仏か。不思議な春の昼。

知恵熱の頃なつかしや鳥帰る
年を取れば知恵熱が出ることはなくなるが、知恵がついているとは限らない。むしろ面倒なことを避ける悪知恵がついてしまっていることも。ひたむきだった昔を思う。

十二月八日ひとりの無菌室
十二月八日は無原罪の御宿りの日であり、太平洋戦争開戦日でもある。ひとりの無菌室に生まれるのはなにか。

なにげない光景を詠む中に、自然や哲学への関心が見えてくる。