2014-11-30

【2014落選展を読む】舞ふて舞ふて?舞うてまだまだ落選展(後編)  山田露結

【2014落選展を読む】
舞ふて舞ふて?舞うてまだまだ落選展(後編)

山田露結



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14. 新機軸 すずきみのる


生徒はや自主登校の二月来る

「自主登校」と「二月来る」を「の」で繋いでしまったために「生徒はや」の示す状態が特定されず、意味に混乱が生じていないでしょうか。「生徒はや自由登校二月来る」とかすれば、とりあえず混乱は防ぐことが出来るような気もするのですが。

螺髪より納衣と甘茶かけ申す

甘茶をかける手順を言っているのでしょうか。それとも、甘茶が流れていく様子を言っているのでしょうか。外国人が話す片言の日本語のようでもあり。「螺髪より納衣へと甘茶をおかけ申します」と散文に戻してみてもやはり片言の日本語という感じが残ります。

ひきがえる歩む素股を光らせつ

素股行為は禁止です。

夏断にはあらねど酒色控ふると

お好きなんですね。

さまざまに腹鳴るものよ水中り

楽しそうです。

春除目なるよ給与表上がり

おめでとうございます。



15. 室の花 津野利行


面倒な奴で結構磯巾着

「面倒な奴で結構/磯巾着」「面倒な奴で/結構磯巾着」。切る位置によって句意が変化してしまいます。楽しいです。

雛納覚える気なき男親

最近はそうでもないらしいですよ。

絶望の崖つぷちから亀の鳴く

そんなところから。

一線を越えて部屋まで来る蠅

まさか。蠅と。

ナイターに今来てますと電話かな

そうですか。

敗荷や皆疲れたるサラリーマン

私も疲れてきました。



16.バンテージ 谷口鳥子


ラスト十秒へばりつく前髪が邪魔

ぶっきらぼうな物言いにスピード感があっていいですね。

回り込みサンドバッグ打つ炎昼
バーベルを保持しスクワット汗みどろ
蝙蝠やサウナスーツで懸垂す
ダンベル握りボディアッパー夏真昼
ががんぼやグローブのテープ歯で締める

回り込んで→サンドバッグを打つ、バーバルを持って→スクワットをする(かつ汗みどろ)、など、順接的、報告的な句が多いのが少し気になります。

グローブにファンデーション付く秋の暮

「グローブにファンデーション」は面白いと思いますが、中八が惜しい感じがします。「グローブにファンデーションの付く〇〇」とか、「〇〇〇〇やグローブにつくファンデーション」とか、なんとか中七におさまるパターンないでしょうか。中八が絶対ダメとは思いませんが、どうしても緩慢な印象になりがちです。中七でおさまるのであれば、なるべくそうした方がいいと思います。

のっぺらぼうの月と並んでジム帰り

「のっぺらぼうの月」の表現はやや平凡な感じもしますが、この句では、さんざん殴られてきた「ジム帰り」の顔と月との対比が生まれています(もっともこの連作の中で読まなければ「ジム」がボクシングジムであることがわからないかもしませんが)。

ジョグダッシュジョグダッシュ十一月

「ジョグダッシュジョグダッシュ(ジョグ)十一月」。もう一つジョグを足してあげると定型におさまります。
破調もいいと思いますが、まずは定型を意識して作り込んでみては、と思ったのですが。



17 空車(むなぐるま) 高梨章


薄氷やねむれぬ母をまぼろしに
月は出たか母のまはりにさざなみよ
蟻たちにはこばれてゆく母ひとり

母の登場する句を抜いて並べてみると、作者の抱く「母」へ思いが幻想的なイメージになって見えてくるような気がします。



18.積木の家 滝川直広


花馬酔木ほそき煙となる手紙

手紙って処分しにくいものですよね。もらった人への思いがありますから、特に重要な内容のものでなくても、ゴミ箱へポイと捨ててしまうに忍びない。手紙そのものを弔うという意味でも焼くというのが一番いい方法なのかもしれません。
掲句。「花馬酔木」との取り合せがしっとりとした景を映しています。「ほそき」煙となってしまった手紙を作者はどんな思いで見つめているのでしょうか。

亀鳴くや冷めてちひさき卵焼

冷めると縮むんですね、卵焼きは。弁当の時間でしょうか。「亀鳴くや」の雰囲気が楽しいです。

梅雨明けやサラダに跳ねる塩の音

「塩の音」がサラダの新鮮さを演出しています。

失業者と思はれてゐる鰯雲

そう思われてみたい作者のポーズだったりして。

煙茸ふみたき子らに数足らず

子供がたくさんいる?学校の先生でしょうか。

初雪や目を立てなほすをろし金

「目をたてなほす」という表現、決まってるなぁと。

マスクして命令形を教へたり

やっぱり先生のようです。

一辺はテレビに空けてある炬燵

小さな可愛らしい発見。

マフラーの結び目猪首より提がる

自画像でしょうか。作者の人柄が表れているような気がします。



19.仮面 中村清潔


ホルマリン漬のいろいろ涅槃雪

気色悪いですね。「涅槃雪」が効果的です。



20.オムレツ  中塚健太


春の服クリーニング屋華やげる

あんまり「華やげる」という感じがしないのですが。

恋かも知れぬ春雨のピアニッシモ

勘違いだと思います。

歩道橋春満月へ上るなり

歩道橋が上がっていきます。

テレビでは自殺のニュース桜東風

昔も今も傘がない。

麗かやどの屋上も歌ひだす

麗かというよりは、狂気を感じます。

ニベアでも塗ろ花過ぎの感傷は

そうですね。ニベアでも塗りましょう。



21.ゐません ハードエッジ


お涅槃を過ぎて仏生会も近し

この気づきは面白いと思いました。涅槃会(釈迦入滅の日)を過ぎるとすぐに仏生会(釈迦誕生の日)がやってくるという単なる暦の上の事実を示することによって、時間の経過が前後するような妙な感覚が生まれます。



22.弔ひ 三島ちとせ


鰤起し駐在さんと居る園児

迷子とかいうわけではなく、駐在さんと仲良しなのでしょう。鰤起しを背景にした駐在さんと園児とのやりとり。ジブリ映画風の一コマ。

風船や海原のある紙芝居

「海原」は紙芝居の中にあるのではなく、現実の海原でしょう。
海の見える高台の公園で紙芝居がはじまります。おはなしが終わると風船がもらえます。微笑ましい景です。

春の空庭の果てまで漁網干す

漁師町の風景。庭いっぱいに広げられた漁網と春の空との好対照。

春の宵缶詰で呑む漁師小屋

漁師たちのガサツな感じが出ていますが、「缶詰で吞む」が少しわかりにくいかなぁ。「吞む」?「酌む」?いっそ「缶詰」でないものにするとか。う~ん。

近道の麦畑抜け慰霊祭

近道の麦畑というごくごく個人的な日常空間を通り抜けることで慰霊祭という非日常がより幻想的なものとして立ち現れます。

鶏頭花海岸線に船の墓

船に墓があるんですね。知りませんでした。身のまわりの何気ない風景をおだやかな視点で切り取った句に惹かれました。



23.菜の花 前北かおる


温室に曇らす眼鏡春寒し

曇りますよね。

ちかちかと蛍光灯や吊し雛

取り替え時です。

四段の鉢置き棚に桜草

三段のもあるらしいですよ。

自販機の赤鮮しき花菜かな

ぴっちぴちの自販機です。

菜の花や山国川も山抜けて

まあ、山を越えたりはしないですよね、川は。

焼き頃の野の肌色や広がれる

焼き頃、というのがあるんですね。

一斉に野焼くやまなみハイウエイ

煙たいでしょ。

ぷつと雲吹き出して山笑ふかな

山が雲を吹き出すんですね、ぷっと。

春埃オリンピックの来るといふ

急ピッチで準備が進みます。

菜の花や腕を伸ばして自分撮る
腹這ひに構ふるカメラ風光る

憎めないキャラなのだと思います、作者は。



24.草の矢 岬光世


宛名なき初荷のとどく灯なり

宛名のない荷物は果たして届くのでしょうか。もしかしたら、小さな部落に住んでいて(離島とか)、宛名がなくても差出人の名前などから、どこへの荷物なのか配達人が判断出来る環境にいるのかもしれません(「東京に行ってる息子さんからだよ。ちゃんと宛名書かなきゃねぇ。」とか)。しかし、この句からそこまで読み取るのは難しいと思います。

早梅や留まる舟に窓を拭き

小さな漁港を思いました。これから漁に出るのか、漁から帰ってきたのか。春近い海辺の町の静かなたたずまいが絵になっています。

葛の花幼なじみも年の頃

アラサーか。アラフォーか。

出航の合図をとほくをみなへし

「を」と「を」がチラチラしませんか(「とほくを」と読みそうになります)。「女郎花」でいいような。

波音の絶ゆるともなく曼珠沙華

やはり、海沿いの町に暮らしているのでしょうか。

手をついて土のやはらか流灯会

思わぬ土のやわらかさへの気づき、ですが、「手をつけて海のつめたき桜かな」(岸本尚毅)という同型の句があります。

家具ひとつ運び出したり雪催

家具を運びだした、という作業の背景にちょっとしたストーリーがありそうです。

人伝てに先代の所作夏の帯

「あなたのおばあさまは、いつもこうしてらしたのよ」。お茶とか、踊りとかの習い事でしょうか。

継ぐあてのなき宿にして零余子飯

作者は、海沿いにあるこぢんまりとした老舗旅館の一人娘(プロファイリングしてどうする)。



25.モラトリアムレクイエム 吉川千早


オーバーザレインボー服薬死ぞ

力み過ぎ、という感じがします。

蝶々を縫ひ止めておく袱紗かな

このくらい素直に詠んだ方がいいような。

太陽を憎むふりして菜花喰ふ

やはり、力み過ぎ、という感じがします。

マニキュアの塗りあいっこや夕涼み

このくらい素直に詠んだ方がいいような。

膣奥に美しき爪黴の花

だから、力み過ぎ、

屋上は立入禁止月見酒

このくらい素直に詠んだ方が、

秋雨や祖父は死んでも大男

遺体になるとよけいに大きく見える?

大叔父と骨壷隠す夏の山

そういうイタズラはやめましょう。大人なんだから。

粉を吹いて祖父は微睡む花林檎

微睡む遺体。

焼きたての骨灰を待つ春の雨

焼かれたのは遺体で骨灰は焼け残り。

仲人に素足曝して挨拶す

失礼のないように。

蛍や友の遺影を焼却す

もっと大事にしてあげてください。後悔しないように。

ふらここを下りぬ死者への鎮魂歌

鎮魂歌は死者へ捧げるものですから「友への」でいいのではないでしょうか。



26.猫鳴いて 利普苑るな


黒革の遺愛の寝椅子冬来る

今はもう居ない家族への思いが、黒革の冷たい感触とともにふとよみがえります。

猫鳴いて初夢のこと有耶無耶に

有耶無耶にしておきましょう。夢のことなんか。

蝋梅や棘の鈍りし鉄条網

「棘の鈍りし」の措辞が句の荒寥とした雰囲気を決定づけている感じがします。「蠟梅」との取り合わせもいい。

寒椿彼の世いよいよ賑へる

身近な人がたくさん旅立っていきました。「いよいよ」は、しずかな覚悟のようにも。

新月や終りかなしき猫の恋

恋の終りはかなしいものです。猫も人も。

鬱金香土曜のカフェをひとりじめ

ゆっくり読書、でしょうか。大人の女性らしい落ち着いた空気感。

ライヴハウス前の黒板秋しぐれ

バンド名が濡れています。「黒板」と「秋しぐれ」との取り合わせの妙。

コスモスや家族写真のこれつきり

つい、何度もながめてしまいます。

猫と坐す真紅のソファー雁渡る

「黒革の遺愛の寝椅子」ではなく、今は、「深紅のソファー」に、猫と一緒にいる暮し。




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