2015-01-25

【八田木枯の一句】母在せば母にうるはし雪の伊勢

【八田木枯の一句】
母在(ま)せば母にうるはし雪の伊勢

西原天気


母。

尊敬語「在(ま)す」。

うるはし(麗し)。

雪。

伊勢。

美しいものがこれだけ連なって(盛られて)いながら、ひつこくもなく(ベタではなく)、全体の美しさが損なわれていない。これはいったいどうしたことでしょう。



まず、母という語の、はるけさとちかしさ。それが「在す」によってたしかな温度・湿度をもちます。「母」の普遍的なイメージが作者自身の身のうち、それと同時にはるか遠い場所へと定位します。

「ば」を単純に仮定と捉えてはなりません。「母がそこに在るかぎり」といったニュアンスでしょう。

伊勢は雪の多い土地ではありません(伊勢国の山間部は別にして)。そこに雪が降る。

美しい地名と美しくない地名があると言いたいわけではありませんが、伊勢は美しい地名です。歴史のある地名と歴史のない地名があるといいたいわけではないが、伊勢には歴史があります。伊勢という地名の美しさと伊勢のもつ歴史は不可分です。

「雪の伊勢」とは、雪国とはまた違う。典雅な趣があります。


それぞれの語が精緻に選択され、やわらかくすべらかな調べに整えられた。奇蹟のように美しい句です。


第一句集『汗馬楽鈔』(1988年)より。

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