2015-06-07

【句集を読む】路地裏でワルツを 北大路翼『天使の涎』を読む 倉野いち

【句集を読む】
路地裏でワルツを
北大路翼『天使の涎』を読む


倉野いち



北大路翼氏の第一句集「天使の涎」は歌舞伎町の句集だ。
ヒリヒリするような激しさと、猥雑さの中に、一冊を通してずっと寂しさが漂っている。その寂しさはノスタルジーにも似ていて、描かれているものは決して美しい風景ではないはずなのに、どうしようもなく胸がきゅんとする。

電柱に嘔吐三寒四温かな
神座で済ますアフター春の雨
焼酎に足す焼酎や閏雪
猫柳性感帯を丸出しに
さくらさくら浮気するのは逢ひたいから


ひとまず、好きな作品を5句引いた。下品だし、情けないし、でもなぜか憎めない。
作品を読み進めるうちに、北大路氏はとても純粋なのだと気付いた。それゆえに世の中の見たくない部分も、真っ直ぐに見つめてしまうのだろう。

紫陽花や自由と幸せとは違ふ
ウーロンハイたつた一人が愛せない
かき氷拷問器具のみな尖る
不眠症蛍の旧字に火が二つ


「天使の涎」を読み、私はひとつの出来事を思い出した。俳句の話ではないのだが、書かせて頂きたい。

もう随分前のことになるが、田渕という男に連れられて、歌舞伎町のキャバクラを一晩中ハシゴしたことがある。

田渕は私の友人が高田馬場のキャバクラで働いていたときのお客さんで、二度ほど一緒に飲んだことがある程度の知り合いだった。
理由は思い出せないが、どういう訳だか私はその夜、田渕と二人で歌舞伎町にいた。
そして歌舞伎町中のキャバクラを何軒も何軒もハシゴした。

好きで何軒も連れ回してるくせに、田渕はどのキャバクラでもずっと不機嫌だった。女の子が話し掛けても無視。どうにもならないので女の子たちは次々と私に名刺を渡した。
彼女たちだって私に営業したところで何の特にもならないのだが、まぁ仕方がないのでドレス可愛いねとか、この店は長いの?とか適当に相手をした。田渕は横でむっつりと黙り込んでいた。こんな酔い方をする奴だったのだろうかと思って、心底面倒臭かった。

「帰るね。送ってくれなくていいから。」
もはや何軒目かも分からない店を出て再び歌舞伎町の路上へ戻ったとき、私はほとんど反射的にそう言っていた。
もういい加減に疲れていたし、田渕の態度にも腹が立っていた。
私がタクシーを探し始めると、田渕は怒ったような口調で、最後に寄る店がある、いいからついて来いと言ってまた歩き出した。

最後の店はなかなか見つからなかった。ブツブツ言いながら同じ道を行ったり来たりするので私のイライラも頂点に達していた。
そして田渕はある路地の角に来たとき、「ああ!くそっ!」と突然叫んだ。

その角にあったのはキャバクラではなく花屋だった。
夜遊びをしない方にはいまいちピンと来ないかもしれないが、クラブやキャバクラで花は何かと入り用なので、繁華街には深夜でも開いている花屋があったりする。
この店もおそらくそうなのだろうが、生憎その夜はシャッターが閉まっていた。

「俺は、お前に花が買いたかったんだよ!」

私は呆気に取られながらも、そうか、これは田渕なりのデートだったのかと気が付いた。
そして同時に、こいつ本当にモテないんだな、と思った。

思い出話が長くなってしまったが、歌舞伎町とは、かっこ悪くて、人恋しくて、危なっかしいけどなぜか惹かれてしまう、そんな町だと思う。そしてそれは、句集を通して見る北大路翼という人物のイメージと、ぴったり重なって見えた。

飲みに行くとは会ひに行くこと大寒波
手袋をして手袋に触れたがる
チンピラのままの一生春の蠅





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