2015-09-20

【週俳8月の俳句を読む】そうやって海は 小野裕三

【週俳8月の俳句を読む】
そうやって海は

小野裕三



木曜の山羊よこたはる暗さかな  青本瑞季

それぞれの曜日が持っているニュアンスがあります。土曜・日曜や月曜はわりと性格のはっきりしている曜日でしょう。だからたぶん、詩とか歌にもわりとよく使われる曜日なんじゃないでしょうか。それでいくと、木曜は平日の中に埋もれていて、ちょっと目立ちにくい曜日です。何かの記事で読んだのですが、人間の感情の起伏をデータで平均化すると、人がいちばん幸せでないのは木曜の夜で、いちばん幸せなのは日曜の朝だとか(うろ覚えなので、ちょっと違うかも知れません)。なるほど、人がいちばん不幸な曜日が木曜なわけですね。山羊も、星座とかになっていて独特のニュアンスを持っているし、とにかくちょっと不幸そうでちょっと神秘的でもある「木曜の山羊」という存在が句全体の雰囲気を決定づけています。

八月のラジオ海流のぶつかる音  大塚凱

八月のラジオ、と言えば歴史的には終戦時の玉音放送が思い出されますが、たぶんこのラジオはどちらかというともっと軽いものでしょう。海辺のカーラジオとか海の家とかで流れる、雑音混じりのポップス。明るい海と空。そんな感じです。でも、やっぱりそれもどこかあの戦争の記憶にもつながるのかも知れません。確かに句に耳を澄ますと、ざわざわと微かな重たい声も聞こえてきます。そんな軽さと重さ、現代と過去が重なる声が句の中に宿っています。でもその声も結局は、海の波音にかき消されていくようです。人間たちの軽さも重さも、海はすべて呑みこんでいくのかも知れません。そうやって海は、この世にあったすべてのことを憶えているのです。

がつかうのおほかたが夜扇風機  宮﨑玲奈

知り合いもなくて夏祭りに二人  柴田麻美子

詰め寄るごとく花葛の正面に  藤井あかり

棒読みの防災無線南瓜切る  江渡華子

何度いつたらわかるんだ、ぼくは御中虫じやない(好きだけど)  中山奈々

声変わりしてるしてない氷菓食う  中谷理紗子




第432号 2015年8月2
宮﨑玲奈 からころ水 10句 ≫読む
第433号 2015年8月9
柴田麻美子 雌である 10句 ≫読む
第434号 2015年8月16
青本瑞季 光足りず 10句 ≫読む
第435号 2015年8月23
藤井あかり 黙秘 10句 ≫読む
大塚凱 ラジオと海流 10句 ≫読む
第436号 2015年8月30
江渡華子 目 10句 ≫読む
中山奈々 薬 20句 ≫読む
中谷理紗子 鼓舞するための 10句 ≫読む

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