2015-09-20

【句集を読む】トボケてみせる 大島英昭『花はこべ』の一句 西原天気

【句集を読む】
トボケてみせる
大島英昭『花はこべ』の一句

西原天気



朝涼や腹に食欲らしきもの  大島英昭

秋の訪れと食欲の到来の結びつきは至極順当。そして寝起きの空腹も、身に覚えがある。

そうした既知の順当な組み合わせが、一句の中でどのように設えられているのか。それもまた俳句の要点のひとつ。

この句の場合は、「らしきもの」でトボケてみせたところが趣向。

自分の腹なのに断定できず「らしきもの」と頼りないところが、なんとも可笑しく、好ましい。

「飢え」では湿っぽく含意過多。「空腹」がいい。

ところで、この「空腹らしき」という不明には、実感があります。若い頃は違いますが(しじゅう腹をすかしている)、年をとると、腹のあたりに感じるコレ(一種の空虚)を空腹と断定しきれないのですよ。

掲句は大島英昭句集『花はこべ』(2015年5月/ウエップ)より。

集中より気ままに。

春雨のいつしか音を立つるほど  大島英昭

ゑのころの没り日の中に透きとほる  同

冬草の光るを土手に踏みにけり  同

雪渓に浮き雲のかげ落ちにけり  同

四阿に昼寝の人がゐて真昼  同

何気なく、やわらかな景。どこかで見たことのあるような気になる景。悦ばしいものを思い出させてくれるような句(リマインダー機能をもった句)が多い。

最後に、いちばん好きだった句。

焚き火する人に郵便届きけり  同


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