2016-02-21

【八田木枯の一句】春老人池に吹かれて映らざる 太田うさぎ

【八田木枯の一句】
春老人池に吹かれて映らざる

太田うさぎ


春老人池に吹かれて映らざる  八田木枯

鏡に映らないといえば吸血鬼と大体相場が決まっているけれど、本邦においては水鏡に映らないのは老人らしい。正確には「春老人」。寿老人じゃあるまいし、春老人って何?と問われても、春老人は春老人だ。もしかすると老人の一ジャンルかもしれない。

あってしかるべきところに影がないのはこの世のものならぬ証だとするならば、老年という世代が自分の半身である影に先に彼の世のゲートを越えさせてしまうこともありだろう。でも、このご老人にはドラキュラ伯爵の末裔的な怖ろしさも悲しみもなく、むしろ仙人のような飄逸な佇まいを感じる。句の後ろに吹いている春風のせいかしらん。

この句を書いたとき、木枯さんは六十代。自分を老人とみなすにはまだ早い年代だろう。いずれ迎える本格的な老いを前にしての心構えのような感じがしないでもない。

何十年か前、ある百貨店の夏のキャンペーンで「太るのもいいかなぁ、夏は。」というキャッチコピーが使われたことがあった。とても印象に残っている(毎夏言い訳のように思い出すわけです)。このコピーに倣えば「老人もいいかなぁ、春は。」そんな気分になる一句。


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